電気指令式ブレーキはデジタル伝送が最初ではない?

鉄道ダイヤ情報に連載されている梓岳志氏の「電車基礎講座」、毎月楽しみにしているのですが、先日発売された2010年8月号(shop.kotsu.co.jp) からはブレーキの話だそうです。

今回(第29回)は歴史篇ということで、各種方式の概説が書かれているのですが、電気指令式にこんな記述が。

その後,電気指令は指令をデジタル伝送で行う方式に発展していく。

Dr.AZUSAの「電車基礎講座」 第29回(鉄道ダイヤ情報No.316・2010年8月号)

これはデジタル伝送より前に何らかの異なる方式が存在した、という意味でしょうか…。

  1. 東急における電気指令ブレーキ方式の推移
  2. 営団以外はデジタル式が主流だった

東急における電気指令ブレーキ方式の推移

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東急電鉄では、1969年の旧8000系から電気指令式ブレーキが採用され、当初はHRD(High Response Digital)でした。これは主幹制御器とブレーキ受量器の間の指令をデジタル信号で行う方式で「デジタル指令式」と呼ばれています。具体的な方法については、デビュー時の「電気車の科学」の記事にこう書かれています。

常用ブレーキは主幹制御器のブレーキ指令により,3本の引通し線と中継弁によって7段の圧力制御ができ,非常ブレーキは列車間を往復する非常ブレーキ回路が設けられていて,非常スイッチ・デッドマン・ATS指令・主幹制御器非常位置・列車分離などで,この回路を開放すると,全列車に作用する.

東京急行電鉄8000系電車の概要(電気車の科学No.261・1970年1月号)

すなわち、3本の常用ブレーキ指令線による2進数3ビット制御で、 2 ^3 - 1 = 7 段階の制御(非常ブレーキは別)を可能にしています。

東急デハ8100形2次車のブレーキ制御装置

一方、1986年に登場した9000系ではHRA(High Response Analog)が採用され、先頭車床下に搭載した指令器によってアナログ信号に変換されてから受量器に送られる「アナログ指令式」になっています。アナログの種類は、PWM(パルス幅が変化)やPシグナル(電流値が変化)などいくつかあるようですが、東急9000系の場合は

HRA(ハイレスポンスアナログ)全電気指令式電磁直通ブレーキ(保安ブレーキ付)で,マスコンからの指令はTc車床下のブレーキ指令器で指令パルスに比例した電圧の直流(30〜79V)に変換し各M車のブレーキ受量器に伝えられる.

東京急行電鉄9000系電車の概要(電気車の科学No.456・1986年4月号)

と、直流電圧で制御する方式のようです。

東急クハ2100形1次車のブレーキ制御装置

このように、東急電鉄ではまずデジタル指令式が登場し、後にアナログ指令式に変わったという経緯があります。

営団以外はデジタル式が主流だった

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電気指令式ブレーキ黎明期の代表的な車両をいくつか挙げてみると、

  • 大阪市30系(www.kotsu.city.osaka.jp) (1968年〜)
  • 営団6000系(1968年〜)
  • 東急8000系(1969年〜)
  • 京阪5000系(www.keihan.co.jp) (1970年〜)

などがあり、このうち営団6000系のみアナログ式で、他はデジタル式となっています。当時、営団以外にアナログ式があったかどうかは分かりませんが、

この方式は国内では帝都高速度交通営団の車両に採用されているが,一般的にはあまり採用されていない.

鉄道車両のブレーキ(2)(鉄道ジャーナルNo.285・1990年7月号)

という記述があることから、いずれにせよ最近まではあまり普及していなかったということでしょう。

これらのことから考えると、デジタル伝送で行う方式に発展はどの事実を指しているのか不明で、むしろ逆じゃないかとすら思うのですが、次回以降に各方式の詳細を見てゆく感じがするので、そこでの解説に期待したいところです。