東急8500系の運客仕切バリエーション

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東急8500系は乗務員室内にATC装置を搭載したことや貫通機能を廃したことなどから、運客仕切の構造が8000系以前とは大きく異なるものとなりました。また製造時期による違いのほか、後に18次車で貫通対応車が増備されたり、譲渡車では先頭化改造車が登場したりするなど、昨今ではバリエーションが増えています。

本家の東急では残存数僅かとなっていますが、引退前にまとめてみました。

東急8500系

製造時期による形態差異は大きく分けて6〜10次車、15〜16次車、17次車、18~19次車の4タイプに分けることができます。

6〜10次車

5次車以前(クハ8000形)の運客仕切は中央に窓付きの貫通開戸を配し、その両脇部分の壁には開閉窓が設けられるものでした。運客仕切の貫通扉を開くと乗務員室の運転台部分を締め切ることができ、同様に正面貫通扉で車掌台側を締め切ることで、先頭車を中間に組み込んだ際、中央部分を旅客用通路として活用できる構造になっていたのが特徴です。

これは(旧)6000系から長く続く伝統でしたが、8500系では以下のように構造や見た目が大きく変わりました。

  • 乗務員室スペース拡大(内寸1,110mm → 1,685mm)に伴い、仕切りの位置が客室側へ後退
  • 仕切開戸の幅が狭くなり(800mm → 650mm)、若干運転台側に寄った位置となった
  • 仕切戸とその上部が客室側から見て引っ込んだ構造になった
  • 正面中央に非常扉を設けながら連結時の貫通機能を持たない(後述する一部の貫通対応車を除く)
  • 仕切戸両側の窓がなくなった(車掌台側の窓は後の改造で設けられた)

この中で注目すべきはなんといっても運転台側に寄った仕切戸の設置位置でしょう。東急では(旧)5000系や9000系以降、車掌台側に寄った例が珍しくなくなってきていますが、逆に運転台側に寄った例は他事業者を含めても類を見ないかと思います。わずか25mmなので一見してその特徴に気付くのは難しいかもしれませんが、すぐ上にある冷風口とのセンター位置を比較すれば分かりやすいかと思います。

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写真1:デハ8515(7-1次車)の運客仕切
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図1:デハ8500形の車両形式図(部分)、運客仕切の運転台側930・車掌台側980・扉650、乗務員室幅2560・奥行き1685、正面非常扉700

また、細部では仕切戸上部の鴨居部分の形状にも注目したいところです。一段引っ込んだ部分は化粧板仕上げとなっていて、扉上部の側面は金属板が貼られているのですが、その長さがなぜかデハ8500形とデハ8600形で異なり、デハ8500形は正方形に近い形状の短いもの、デハ8600形は扉枠の上部まで延びる長いものとなっている違いがあります。

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写真2:デハ8522(8次車)の運客仕切扉鴨居部
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写真3:デハ8622(8次車)の運客仕切扉鴨居部

15〜16次車

軽量車になって初めての先頭車である15次車では天井高さの変更に伴う形状変化のほか、下記の変更点があります。

  • デハ8500形に非常用Dコックと非常通報スイッチが設けられた(10次車以前は上り方妻面に設置)
  • デハ8600形の扉上部側面の金属片がデハ8500形と同じ短いタイプに統一された
  • 仕切扉鴨居部に貼られていたローレル賞のプレート付きが省略された

17次車

17次車ではATC装置の改良により車掌台側に小窓が設けられ、後に16次車以前も同様の改良を受けました。この変更点は鉄道ピクトリアル1994年12月臨時増刊号(No.600)の「私鉄車両めぐり〔151〕」で詳しく解説されており、ご存知の方も多いでしょう。

18〜19次車

18次車以降の編成増備車は内装が9000系に合わせたものとなり、化粧板もソリッドパターンの明るいものになって大きく印象が変わりました。

  • 平天井化
  • 化粧板が無地からソリッドパターンに
  • 仕切戸鴨居部分が面一に

このうち8638F×10両は大井町線との共通予備車として5+5両に分割できる形で製造され、続く8639F×5両と8640F×5両は大井町線に新製投入、逆に連結して田玉線で運用できるように考慮されました。このため10両編成時に中間に入るデハ8538、デハ8540、デハ8639、デハ8641の4両は8500系としては異端の貫通対応となり、運客仕切は開戸部分の引っ込みが大きくなりました。それでも扉の横幅だけでは貫通時に乗務員室を仕切るには長さが足りず、田玉線での運用時はアダプターを介していました(同様の方式は1000N系の貫通車でも見られました)。

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写真4:デハ8541(非貫通車・18-2次車)の運客仕切
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写真5:デハ8538(貫通車・18-1次車)の運客仕切
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写真6:デハ8540の連結運用時の様子(貫通扉と運客仕切の間に金属製のアダプターを噛ましている)

譲渡車

伊豆急行クモハ8152(東急デハ8723)

8500系譲渡車の中でもっとも異端と言えるのがこの車両でしょう。

伊豆急に譲渡された8000系グループの中で唯一8500系から改造された車両ながら、正面顔や運転台周りは8000系に合わせており、運客仕切も大型の窓が3つ設けられています。

パッと見では8000系更新車と見違えるようですが、細かく見ると以下のような特徴があります。

  • 化粧板の模様が東横線の室内・車体更新車のデザインではなく、大井町線の車体更新車のデザインとなっている
  • 窓枠の形状や寸法が東横線の室内・車体更新車の固定タイプではなく、8000系オリジナル(未更新車あるいは大井町線車体更新車)の開閉タイプに酷似しており、流用品と思われる[1]
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写真7:伊豆急行クモハ8152の運客仕切
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写真8:【参考比較】伊豆急行クハ8001の運客仕切(東横線の室内更新車で窓枠が固定式である)

秩父鉄道デハ7002(東急デハ8709)、デハ7202(東急デハ8809)

秩父鉄道譲渡車(2009年譲渡)のうち、デハ7002、デハ7202の2両は中間車を先頭化改造されました。

新設された運客仕切はオリジナルの8500系の雰囲気を残しつつも運転台側にも窓がある3窓構成になっているのが特徴です。また、仕切戸は化粧板付きとなりましたが、なぜかその部分だけソリッドパターンでなく単一のクリーム色となっています。ここだけ見ると東急(旧)7000系を彷彿とさせますね。

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写真9:秩父鉄道デハ7202の運客仕切

長野電鉄デハ8506(東急デハ8730)、デハ8156(東急デハ8841)

長野電鉄譲渡車のうち、2009年に譲渡されたデハ8506、デハ8156の2両は中間車を先頭化改造されました。

新設された運客仕切は秩父鉄道譲渡車に似ていますが、仕切戸の化粧板はありません。

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写真10:長野電鉄デハ8506の運客仕切
  • [1]伊豆急8000系の他の先頭化改造車は、車両によって開閉タイプと固定タイプが混在しており、さらに細部まで見れば車両ごとに違う状況である。