鉄道ピクトリアル2022年9月号「惜別 東急8000系」特集の「東急8000系 車内設備のおもしろ味」感想

今月の鉄道ピクトリアルは「惜別 東急8000系」特集です。

その中でも「東急8000系 車内設備のおもしろ味」(岩永伸一)を興味深く拝見しました。目次を見ると正式な本文記事ではなくグラフ扱いのようですが、以前から8000系列の室内を詳細に調べられている岩永さんならではの視点による素晴らしい “記事” に仕上がっていると思いました。8000系列の形態分類記事はピク誌に限らず多々あれど、妻面の自動音量調整装置センサー(toq8247.travel.coocan.jp)まで紹介されたことは初めてではないでしょうか。

だからこそ、読者としても単語の一つにまで目を皿のようにして読むのが礼儀と思いますが、そうするとどうしても気になる部分が出てきます。

まず全体的なところとして、個々の写真に撮影日を入れて欲しかったです。たとえば46ページに掲載されたデハ8865のスピーカー写真を見ると蛍光灯が一部抜かれているのが分かりますが、これが東日本大震災直後の節電対応によるものか、それともたまたま当該蛍光灯が破損しただけなのか判断が付きません。

鉄道車両の写真において、室内の記録はデジカメ隆盛でかなり増えてきたとはいえど、まだまだ痒いところに手が届くまでには至っておらず、1枚1枚が貴重な存在であることに変わりありません。数少ない室内形態に焦点を当てた記事であるのに、こういう部分で情報が欠けているのはもったいないと思いました。

以下、記事の個別の部分に目を向けてみます。

  1. 荷棚
  2. 吊手
  3. 冷房装置
  4. 室内車端部
  5. スピーカー
  6. 座席

荷棚

荷棚の解説はたった半ページほどの分量であるにも関わらず、よほどの8000系猛者でもない限り一読しただけでは理解が困難だったのではないでしょうか。8000系の荷棚バリエーションはそれほど複雑怪奇であり、それを短い文章でまとめるのは著者も苦労されたであろうと推察されます。

重箱の隅ですが、ここでは2点気になりました。

  • 12-3次車は軽量車であるにもかかわらず新製当初は塩ビパイプが用いられたとありますが、塩ビパイプが用いられた軽量車としては他に軽量試作車(初代デハ8400形)も挙げられます。
  • 写真キャプションでクハ8019にのみ「更新車」と書かれているのは誤解を招きます。本文では触れられていませんが、意図としては東横線の室内更新車および車体更新車は端部処理が直角に変更されたことを区別するため、あえて「更新車」と表記したのだと思われます。しかし、更新車の中でも大井町線所属車はこの部分に手を加えられていません。そのため、ここは「東横線更新車」などと限定して表記するか、あるいは本文で触れないのだからいっそ表記なしでも良かったのではないかと思いました。

吊手

タイトルは「吊手」なものの、解説は吊手棒と吊手ブラケットに関することが大半です。

その吊手ブラケットですが、1次車のうち運客仕切背後のみはY字タイプであり、また後年の車椅子スペース設置に際しても荷棚の撤去に伴いこのタイプが採用されました。Y字タイプは先代の7200系(7600系改造車を含む)にも存在しましたが、それと比べると二股部分が短い独特な形状で、今は国内では見られなくなってしまったこともあり、せめて文章だけでもこのユニークなタイプを紹介して欲しかったです。

画像1デハ8108(1次車)の車椅子スペース部分の吊手まわり

冷房装置

冷房準備車の時代の話まで触れられていますが、それならばもう一声、8019F(2次車)のみ製造当初の冷風口の素材が金属製であったことが書かれていれば良かったと思いました。

ちょうど同誌13ページには編集部所蔵による8019Fの冷風口写真が掲載されているので、このあたり編集部がうまく連携してくれればと思ったのですが、高望みしすぎですかねえ……。(外野なので勝手なことを言う)

室内車端部

運転台仕切について、8090系は基本的には狭義の8000系と同一であるとありますが、ぱっと見の見た目は酷似しているものの、仕切開戸の幅はクハ8000形の 800mm に対し、クハ8090形では 780mm と狭くなった違いがあります。

また乗務員室の奥行き拡大に伴う仕切の設置位置もバリエーションが存在します。

スピーカー

埋め込みコーン形について、21次車はスピーカー保護板の孔の数が増えていると書かれており2種類存在することが読み取れますが、後に改造工事で新設された東横線更新車、および田玉線の初期更新車であるサハ8945、サハ8946は新旧どちらのタイプであるか本文からは分かりません。

実際はどちらも21次車と同じ孔の多いタイプでしたが、とくにサハ8945、サハ8946についてはもはや現車調査も不可能なため、これは解説が欲しかったところです。

画像2デハ0807(18-2次車)の埋め込みスピーカー保護板(孔が少ない)
画像3デハ0718(21次車)の埋め込みスピーカー保護板(孔が多い)

座席

袖仕切りについて、横棒の高さが1次車と2次車以降で違うことに触れられているのは流石ですが、1次車は下部が側引戸脇の柱にまで達していたことや、側引戸脇の手すりと連結されていたことはなぜ割愛されてしまったのでしょう。

とくに後者については、旧7000系や7200系にも見られない特徴で唯一8000系1次車のみだったという希少性、および座席全体を撮った写真からでは角度的に見えない部分のため、文章で残しておく必要性があったと思います。

画像4クハ8007(1次車)の座席袖仕切と側引戸脇の手すりが連結された様子

またモケット配色について、20次車のうち8590系は(中略)新製時よりモケットがマーブルとオレンジとなりの「マーブル」は「マルーン」の誤植と思われます。マーブルとは大理石の意味であり、特定の色を示した単語ではありません。

巷ではブラウンとマルーンを同一視し、「8590系の座席は9000系と同じ配色」などと誤った解説をしている文献も多い中、本記事はせっかくブラウンとの区別をしているところに色名が間違っているのは惜しいと思いました。