東急電鉄の動態保存車となった8637F×4Rの改造点
東急8500系のうち最後まで活躍した8637F×10Rは引退後、4両編成に短縮されて動態保存されることとなり、本年5月の大型連休より一般の臨時列車として新たなスタートを切っています。
この車両の改造点はすでに複数の業界誌で発表されており、とくに鉄車工による「鉄道車両工業」No.514(2025年4月号)では「東急電鉄8500系 復活への道のりと今後の展望」と題して細部にわたっての改造内容が紹介されています。動態保存化の意義やバリアフリー整備ガイドラインとの兼ね合いに留まらず、どの機器をどの車両から流用したといったマニアにしか興味を持たれないことにまで踏み込んでおり業界誌らしからぬ記事となっています。
とはいえ本当の意味で8000系マニアの満足できる調査結果は見かけないので、すっかり現場から足が遠ざかった身ながら、ひさびさに沿線に繰り出して観察してきた次第です。
※本記事内の写真は特記を除き2026年5月3日の撮影。
床下機器
| 車号 | 台車の間にある主な床下機器(強調は追設ないし移設) |
|---|---|
| デハ8537海側 | 断流器、主制御器、界磁チョッパ装置 |
| デハ8537山側 | 主抵抗器、ブレーキ制御装置 |
| デハ8537中心部 | 列車情報車上子 |
| デハ8637海側 | SIVフィルタ、空気圧縮機、整流装置 |
| デハ8637山側 | SIV起動装置、SIV本体、ブレーキ制御装置 |
| デハ8797海側 | 断流器、主制御器、界磁チョッパ装置 |
| デハ8797山側 | 蓄電池、主抵抗器、ブレーキ制御装置 |
| サハ8980海側 | SIV起動装置、SIV抵抗器、SIV変圧器、24V整流装置、空気圧縮機 |
| サハ8980山側 | 24V蓄電池、SIV本体、整流装置、SIVフィルタ、ブレーキ制御装置 |
デハ8537(10号車→4号車)
- 海側、山側とも変化なし
外観の変化は少ないのですが、ユニット開放して4M制御となったので、システム的にはもっとも変化のある車両といえるでしょう。
※鉄車工の記事には4号車への蓄電池の追設
とあるのですが、現車の床下には海側、山側のいずれにも見当たりません。
デハ8637(1号車)
- 海側の中央にSIVフィルタ装置を追設(おそらくクハ1022からの移設)
- 海側のもっとも上り方に整流装置を追設(1000N′系からの移設、おそらくデハ1222)
- 山側のもっとも下り方にあった蓄電池を撤去し、代わりにSIV起動装置を設置(おそらくクハ1022からの移設)
- 山側のSIV起動装置と元空気だめの間(もともとは空きスペース)に120kVA SIVを追設(クハ1022からの移設)
4両の中でもっとも変化の大きい車両です。まさか8500系に120kVA SIV(INV-020型)(w0s.jp)が搭載されることになろうとは、いったい誰が予想できたことでしょうか。SIV本体は本来の170kVAタイプと外観上の差異は少ないものの、海側の整流装置は見るからに1000N′系のもの(w0s.jp)なので違和感がありますね。
デハ8797(2号車)
- 海側は変化なし
- 山側のもっとも下り方に蓄電池を追設(外箱は1000系ないし2000系で使用されていたものであり、デハ8637からの移設ではない)
全体的に変化は少ないものの、8000系グループ特有のあのずらっと並んだ主抵抗器の隣に蓄電池が配置されたことには興奮を隠せません。
サハ8980(8号車→3号車)
- 海側の上り方(SIV変圧器と上り方台車の間)にあった整流装置や24V蓄電池などを撤去し、空気圧縮機と除湿装置を追設(編成他車からの移設)
- 山側のもっとも下り方に24V蓄電池を設置(おそらく同車海側からの移設)
- 山側の170kVA SIVとSIVフィルタ装置の間に整流装置を設置(おそらく同車海側からの移設)
サハにCPが搭載されたことは注目に値します。
屋根上機器
集電装置、冷房装置ともに大きな変化はありません。
集電装置
デハ8537、デハ8797とも9000系で採用されたPT44S-D-M型を引き続き搭載しています。他車種はすべてシングルアーム型に統一されたので、この2両が東急で最後の菱形パンタグラフとなってしまいましたね。
デハ8537は4M制御で運転されるようになったのですが、機器構成はユニット車(すなわちM1c車)なので、海側の主回路ヒューズ(MF)を通過する配管は2本のままです。
冷房装置
8500系のうち18次車以降の編成車およびそれらの編成に組み込まれることを前提とした21次増備車は9000系と同じ冷房装置が搭載されており、後に一部が容量を増加した新型タイプへ更新され、それらは金属キセでたいへん目立つものとなっているのですが、その配置も含めて10両編成時代のままです。
- デハ8537(10号車→4号車)
- 上り方3基は在来型、もっとも下り方のみ新型
- デハ8637(1号車)
- 下り方3基は在来型、もっとも上り方のみ新型
- デハ8797(2号車)
- 4基とも在来型
- サハ8980(8号車→3号車)
- 中央2基は在来型、両端は新型
在来型も細かく見れば2種類に分類でき、もともと18次車はRPU-2214型(9000系1次車と同一)、19次車以降はRPU-2214A型(9000系2次車以降と同一)を搭載していたのですが、無印型は徐々にA型への交換が行われ、10両編成末期には無印型は消滅してA型へ統一されていました。4連化後も無印型は存在しません。詳細は東急8500系後期車 冷房配置バリエーション(w0s.jp)を参照ください。
乗車率測定装置(撤去)
10両編成時代の8637Fといえば東急電車で唯一「乗車率測定装置」を搭載していたのがなによりの特徴であり、デハ8637の乗務員室内には装置本体が、また各車の海側床下にはその変換器があったことで外観上でも他編成との区別を付けることが可能でした。
これらは残念ながら撤去されていました。
転落防止幌
デハ8797は10両編成時代はIRアンテナ搭載車(3号車)に隣接して連結されていたため、下り方妻面の転落防止幌は背が低いタイプだったのですが、これはそのまま存置されています。他車種だと2000系(デハ2202~2203、デハ2253)は5連化・9020系化に際して通常高さのものに統一されているのですが、こちらは定期運用に就かないのでそこまでの対策は不要と判断されたのでしょうか。
車椅子スペース
1号車(デハ8637)と3号車(サハ8980)のそれぞれ下り方海側車端部には車椅子スペースが追設されました。4両編成で2か所設置とされたのは、いわゆる「バリアフリー新法」に関連した移動等円滑化基準(laws.e-gov.go.jp)の2020(令和2)年4月1日施行版において、4両以上の固定編成には2か所以上の設置が求められていることによるものです。
改造内容として腰掛、荷棚が撤去され、側窓と妻窓が固定化改造されているのは当然のことですが、注目すべき点として以下の特徴があります。
-
非常通報ボタンは側面ではなく妻面に設置
- ボタンそのものも流用品と思われる
- 窓の手掛は存置
- 側窓のカーテンも存置
-
側窓下にはドア脇まで伸びる長い手すりが設けられた一方、窓上の手すりは非設
- 窓上手すりは初期に車椅子スペースが設けられた2000系1次車と8000系の一部車両が非設であったほか、カーテンキセとの位置関係からか例外的に9000系も非設とされ、さらに近年はユニバーサルデザインタイプの手すりを装備した車両も非設とされているのですが、従来型手すりを持ち、スペース的な制約もない8500系で非設とされたのは異例であり注目に値するでしょう。
- 消火器は撤去され、山側に移設
- 暖房器は非設
また種車の違いにより、両車で荷棚受けの撤去痕に違いが見られます。18-1次車のデハ8637は車端部の荷棚受けが両端に加えて中間を加えた3つあるですが、18-2次車以降は中間部が省略されたので、19-1次車のサハ8980は撤去痕も2つとなっているのです。
消火器
前述のとおり、車椅子スペース設置に際して当該箇所の消火器は移設されています。
参考までに、まずは田園都市線10両編成時代の配置を示します。
| 号車 | 形式 | 消火器配置 |
|---|---|---|
| 1号車 | デハ8600 | 上り方乗務員室、下り方海側 |
| 2号車 | デハ8700 | 下り方両側 |
| 3号車 | サハ8900 | 上り方海側、下り方海側 |
| 4号車 | デハ8800 | 上り方山側、下り方海側 |
| 5号車 | デハ8700 | 下り方両側 |
| 6号車 | デハ8800 | 上り方山側、下り方海側 |
| 7号車 | デハ8700 | 下り方両側 |
| 8号車 | サハ8900 | 上り方山側、下り方海側 |
| 9号車 | デハ8800 | 上り方海側、下り方海側 |
| 10号車 | デハ8500 | 上り方山側、下り方乗務員室 |
次に4連化後の8637Fの配置です。
| 号車 | 車号 | 消火器配置 |
|---|---|---|
| 1号車 | デハ8637 | 上り方乗務員室、下り方山側 |
| 2号車 | デハ8797 | 下り方両側 |
| 3号車 | サハ8980 | 上り方山側、下り方山側 |
| 4号車 | デハ8537 | 上り方山側、下り方乗務員室 |







