ミニコミ誌「BLACK PAST」の虚淵玄インタビュー

2011年6月に発行されたミニコミ誌「BLACK PAST」に虚淵玄さんのインタビューが掲載されているとの情報を Twitter のタイムラインで見かけ、買ってみました。

「すれ違いの先にある奇跡」と題した宇野常寛さん(評論家)との対談形式によるもので、発行時期から察せられるとおり、『まどか☆マギカ』に関するトークが中心となっています。

テレビ放送から4年経ったいま読んでも興味深い内容が満載で、『まどか☆マギカ』ファンなら読んでおいて損はないものかと思います。

以下、章ごとにとくに注目したい部分を抜粋します。

  1. 「奇跡」をめぐって――『魔法少女まどか☆マギカ』
  2. 無性的な空間――『鬼哭街』『Fate/Zero』『まどか』
  3. ターニングポイントとしての『Fate/Zero』
  4. 世界の内側に潜む脅威
  5. ネット以降の想像力と物語の形
  6. 黒歴史からの思考
  7. 日本アニメの未来に向けて

「奇跡」をめぐって――『魔法少女まどか☆マギカ』

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ここでは主に10〜12話で展開された、まどかとほむらの間に起こった「奇跡」について虚淵さんの考えが述べられています。宇野さんからはエヴァンゲリオンにおける「ATフィールド」や「人類補完計画」の概念を引き合いに出しつつ、時代や地域による文化的な背景からの考察もなされています。

  • (虚淵)僕にとって奇跡というのはあくまでも単なる偶然に意味を見出す行為に他ならない
  • (虚淵)まどかがほむらの真の想いを理解するのは全能の力を手にした後
  • (虚淵)ことごとくすれ違い続けるというのが「まどか」における重要なテーマなのかもしれません
  • (宇野)彼女たち(※まどかとほむら)は別れることによって初めて関係性を構築できた部分があるんじゃないかと思います

無性的な空間――『鬼哭街』『Fate/Zero』『まどか』

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『まどか☆マギカ』では男性キャラがほとんど登場しないこともあって、無性的な世界観とも思える一方、決して性差を無視しているわけでもないことが語られています。

  • (虚淵)男と女の間に成立するような関係は、同性同士で成り立つものだろうと考えている部分があるかもしれません
  • (宇野)虚淵さんの感覚としては、フィクションというのは性差を超えられるものではないということ
  • (虚淵)最後まで理屈抜きに救済や生存に価値を見出そうとしていくのは女性の理論

ターニングポイントとしての『Fate/Zero』

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基本的には『Fate/Zero』の話ですが、「叛逆の物語」での改変後世界におけるほむらのセリフ「欲望よりも秩序を大切にしてる?」にも繋がっているであろう虚淵さんの考えが興味深いです。

  • (虚淵)世界より個人をとる、自分の欲望を肯定するというのは僕の中で絶対にバッドエンドなんです。
  • (虚淵)これ(※Fate/Zero)以降は『アイゼンフリューゲル』にしろ「まどか」にしろ、主人公はどこか破滅に向かってしまうけど世界にとってはいい結末というものを迎えています

世界の内側に潜む脅威

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21世紀に生きる我々にとって脅威とは何か、正義と悪とは何か、という点が語られています。

  • (宇野)虚淵さんが描く敵というのはいわゆる外敵ではなくて、基本的には僕たちの生きているこの世界に存在している脅威ですよね
  • (虚淵)自分の生きている世の中こそが怖いという思いがある
  • (虚淵)おそらく一生、勧善懲悪をベースにした話は書けない

ネット以降の想像力と物語の形

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キャラクターよりストーリという姿勢、これは脚本家という立場を考えるととくに驚く話ではありませんが、ご本人の口からはっきりと語られています。

  • (虚淵)『スーパーロボット大戦』シリーズにハマれない
  • (虚淵)自分の中で優先されるものは世界観であって、その中を自在に動き回るユニットだけを単体で愛することはできない

黒歴史からの思考

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自身が病気で死にかけた経験から、死については独特な感覚をお持ちのようです。とくにテレビシリーズ制作中にさやかに情が移ってしまった新房監督とのやりとりの例がおもしろかったです。

  • (虚淵)二四歳くらいの時に病気で死にかかった……(中略)……その時間に味わったものは今でも結構作品に活きている
  • (虚淵)死人として数カ月間過ごしたことで、死者の目線みたいなものを獲得できたのかなという気はします
  • (虚淵)作品を作る際に躊躇なくキャラクターを殺せる
  • (虚淵)さやかは「まどか」の中で復活してもらっては困るキャラクター
  • (虚淵)消えることは不幸でもなんでもないというのが物語のオチになっている
  • (虚淵)キャラクターにとってのエンディングって死なので、そこに向かうまでの過程をいかに盛り上げるかが重要

日本アニメの未来に向けて

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『Fate/Zero』と『まどか☆マギカ』で大きな成功を収めたことに対しての想いと今後の抱負が語られています。

  • (虚淵)今回の「まどか」を大きな節目とまでは思っていない……(中略)……節目ということでいえばやはり『Fate/Zero』の方が大きかった
  • (虚淵)『Fate/Zero』と「まどか」で「とらのあな」に二回行列を作ることができて、それは自分の人生にとってすごく幸福なこと

このほか、村上裕一さんによる「受胎の記憶――ループと忘却のメカニズム」の記事も、タイトルこそループ作品全般を扱う感じを受けますが、実態は『まどか☆マギカ』の批評記事で、『涼宮ハルヒの憂鬱』の「エンドレスエイト」編と比較しつつ、登場キャラクターの立場についての考察がなされています。