真岡鐵道で50系客車のTR-230型台車を観察

去る7月3日に「ゆうマニ」と呼ばれているマニ50 2186が東急電鉄に搬入されました。これはすでに発表されているとおり、「THE ROYAL EXPRESS」を2020年に北海道で運行(PDF)(www.tokyu.co.jp)するにあたり電源車として使用するもので、そのような特殊な用途とはいえ、東急が他事業者の車両を譲受するのは1940〜1950年代に行われた国電戦災車の払い下げ以来のことと思われます。

搬入当日、八王子駅で現車を観察したのですが、台車銘板を見ると「TR230C」と書かれているのに気付き、TR-230型の初期タイプとC型ではどんな違いがあるか調べてみることにしました。

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東急電鉄へ甲種輸送されるマニ50 2186(八王子駅)オリジナル画像
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マニ50 2186 のTR230C台車オリジナル画像

TR-230型台車のバリエーション

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まずは50系客車、および関連する事業用車に関する文献をいくつか見てみます。TR-230型台車は旅客用の50系客車(50形、51形)、荷物車のマニ50形、現金輸送車のマニ30形(2007〜2012)に採用され、台車はE型までが存在するようです。

北海道向けの51形に関する記述。

台車はTR230を耐寒耐雪構造としたTR230Aで,軸バネとマクラバネをゴム被覆のエリゴバネに変更した.

鉄道ピクトリアルNo.558・1992年4月号「50系客車 車両のあゆみ」(岡田誠一) p.16

現金輸送用のマニ30形に関する記述。

台車は,マニ50形用のTR230形の軸ばねとまくらばねを変更したTR230B形をはく.また,制輪子とタイヤの間隔を自動的に保つスラックアジャスタが取り付けられている.

鉄道ファンNo.521・2004年9月号「日本銀行券輸送用マニ30形式荷物客車のすべて」(岡田誠一) p.123

マニ50形100番代(2101〜)に関する記述。

昭和53年度契約マニ50形式は,北海道運用のマニ50形式用として台車をTR230からTR230Cと構造を変更した。ブレーキシリンダを車体装架とし(車両番号を100番代とする),降雪時の検修容易化を図ったことで,ブレーキ装置が大きく変更したことである。すなわち,在来車と同様,ブレーキシリンダを台ワク下に装架し,ブレーキ引棒部に自動スキマ調整器を取付けた。車体ブレーキ装置方式の自動スキマ調整器付である。

この方式は,過去に客車体質改善工事の一環として,スハネ16形式寝台客車に自動スキマ調整器を取付ける改造工事があったが,この場合は,ブレーキシリンダは1両に1組であり,マニ50形式車は1両に2組という点が大きく相違するところである。客車としては初めてのブレーキ装置方式である。

車輛工学Vol.48 No.5・1979年5月号「マニ50形式〈100番代〉荷物客車 車体ブレーキ装置の概要」(松本昇) p.15

「北斗星」用電源車(マニ24 501・502)に関する記述。

台車は軸ばね,枕ばねを変更したTR230D.なお,種車はマニ50 2048,2070(廃車復活)である.

鉄道ピクトリアルNo.785・2007年2月号「50系客車のあゆみ」(岡田誠一) p.52

オハフ50形から改造された建築限界測定車スヤ50形(後のマヤ50形)に関する記述。

台車は基本的に従来のTR230台車を再用しましたが、最高運転速度を95km/hから110km/h対応にしたことと車両重量の変更に伴う改造を行った結果、台車形式はTR230Eとなっています。

改造の内容は、運転速度の向上と車体重量の増大に伴いブレーキシリンダーを従来の140×160×180Uに変更、軸ばねマクラばねの取り替えを行いました。計測用として、後位台車の2軸に速度検出用車軸発電機と距離パルス発信用の速度発電機がそれぞれ1基取り付けられ、解析室のコンピューターに接続されています。

前位台車には取り付け用の枠を介してレール変位検出器が2台取り付けられ、さらに台車台枠と揺れマクラ部間の変位検知器が1台、台車輪軸受け部と車体台枠間の変位検知器が2台取り付けられ、解析室のコンピューターで車体動揺により生じる測定誤差の補正が可能となっています。

R&M Vol.4 No.9(通巻552)・1996年9月号「JR東日本スヤ50建築限界測定車の開発」(笹木尚) p.19

まとめると、それぞれの履用車種と変更点はこんな感じになります。

台車形式 履用車種 変更点
TR-230 オハ50形、オハフ50形、マニ50形(0番台)
TR-230A オハ51形、オハフ51形 軸ばね、枕ばね変更(エリゴばね)
TR-230B マニ30形(2007〜2012) 軸ばね、枕ばね変更
TR-230C マニ50形(100番台) ブレーキシリンダの車体装架化
TR-230D マニ24形500番台 軸ばね、枕ばね変更
TR-230E スヤ50形(現: マヤ50形) 軸ばね、枕ばね、ブレーキシリンダ変更、各種計測用機器設置

また、ゆうマニのTR-230C台車を見る限り、軸ばね、枕ばねがTR-230Aと同様のエリゴばねになっていることが分かります。これがTR-230C型共通の仕様なのか、ゆうマニ独自のものなのかは未調査です。今となっては他のマニ50形100番台の現車調査を行うことは(JR方面の情報に疎い自分にとっては)難易度が高い気がしますが、今後の調査課題とします。

真岡鐵道で現車調査

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関東で気軽にTR-230型台車を観察できる現存車といえば、真岡鐵道のSLもおか号用客車でしょう。SLもおか号は下館10:35→茂木12:06/14:26→下館15:56の一往復が土日を中心に運行されているので、下り列車の発車に合わせて下館駅に向かうことにしました。

小山駅から9:30発の水戸線・下館行き列車に乗り、終点の下館駅で真岡鐵道のホーム(1番線)に向かうとちょうどDLを先頭とした回送列車が側線に入線してくるところでした。この側線と1番線との間には、昔はもう1本線路が敷かれていたのだと思いますが、中1線空きの角度で観察が可能です。ただ、SL列車の乗客がこの時点でホームに列を作っているので、マニア的な観察行為はやや遠慮がちに……。

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下館駅の側線に入線するDE10牽引の50系客車(10:00頃)オリジナル画像
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下館駅の側線に停車中のオハ50 22 の形式写真オリジナル画像

台車もホームからやや見下げる形にはなりますが観察可能です。

前掲した「ゆうマニ」の台車写真も再掲しますが、オリジナルタイプとC型とを比較すると、C型には軸ばね、枕ばねのゴム被覆がなされている違いが確認できます。

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オハ50 11 のTR230型台車オリジナル画像
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マニ50 2186 のTR230C型台車オリジナル画像

台車の図面を見る限り、オリジナルタイプには台車枠の中梁に2個のブレーキシリンダがあり、一方でC型のブレーキシリンダは車体装架になっている点が構造的にはもっとも大きな違いと言えそうですが、これは床下へ潜り込まない限り確認は難しそうです。

台車の観察だけならここで終わりにしても良かったのですが、せっかくなので終点まで乗ってみることにします。まずは 10:17 に先発する普通列車で車庫のある真岡駅へ。ここでは駅本屋のあるホームから下館駅とは反対側の側面を観察することができます。

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真岡駅に入線するC11牽引のSLもおか号オリジナル画像

50系客車の台車銘板は前位側と後位側で互い違いの形に設置されているので、すべての銘板をチェックするには両サイドからの確認が必要になるわけですが、この駅では下りのSL列車は10分間停車するので、途中駅ながら3両分の確認には充分です。下館で確認した分も合わせて全6台のデータはこちら。

車号 台車位置 台車形式 製造番号 製造年月 製造所
オハ50 11 下館方 TR230 5335 昭和53年6月 新潟鐵工所
オハ50 11 茂木方 TR230 5334 昭和53年6月 新潟鐵工所
オハ50 22 下館方 TR230 6959 昭和55年9月 新潟鐵工所
オハ50 22 茂木方 TR230 6960 昭和55年9月 新潟鐵工所
オハフ50 33 下館方 TR230 5351 昭和53年7月 新潟鐵工所
オハフ50 33 茂木方 TR230 5350 昭和53年7月 新潟鐵工所

駅前のSLキューロク館(sl-96kan.com)でしばし休憩し、12時から行われた9600形の自走運転の様子を見学した後、 12:29 発の列車で終点の茂木駅へ。客車は機関車と切り離された状態で側線に留置されており、駅ホームや線路沿いの駐車場から3両とも観察することができます。

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茂木駅の側線に停車中のオハ50 11 の形式写真オリジナル画像
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茂木駅の側線に停車中のオハフ50 33 の形式写真オリジナル画像

乗ってきた普通列車が 13:22 に折り返し発車した後、転車台近くにいた蒸気機関車が入れ替えを始めました。まだ午後の便に乗る乗客はほとんど来ていない時間でしたから、入れ替えの様子を眺めていたのは自分も含めてほんの数人。のどかなものです。

オハフ側に機関車を連結した編成は発車の10分ほど前にホームに入線。この時、転車台を見学する通路から2〜3号車(オハ車2両)の床下を見ることができます。下り列車の到着後の時点だと、もしかしたら(本来の)転車台見学をする客が通行しているのかもしれませんが、上り列車の発車前はそんな人も皆無ですから、誰に気兼ねすることもなくじっくりと床下観察が可能です。

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オハ50 22 のTR230型台車を転車台通路から見るオリジナル画像

また、駅舎2階には展望デッキがあり、客車の屋根上の様子を眺めることができます。

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オハ50 11 の屋根上を茂木駅の展望デッキから見るオリジナル画像

さて、帰路はSL列車に乗ってみることにします。列車は自由席で乗客は機関車に近い方に集まるためか、最後尾の1号車は10人程度しか乗っていない状態。たまたま空いていた日だったのかもしれませんが、先行きが不安になります。ともあれ、大井川鐵道など余所のSL列車では遊園地のアトラクションに乗っている気分になることも多い昨今、車内の雰囲気という意味では現役の客レに乗っている感触を味わえました。

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「SLもおか号」上り列車の1号車の様子(茂木駅発車直後)オリジナル画像

下館駅まで戻った後、列車は先頭にDE10形を連結して、特別料金不要の普通列車として真岡駅まで運転されます。観光列車感のない国鉄型の普通客レを味わえる列車としては、おそらく日本で唯一の存在ではないでしょうか。この列車でもちゃんと車内チャイムが鳴るのが良いですね。

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真岡駅到着後、側線で入れ替えを行うDL列車オリジナル画像