<dfn> 要素の存在が原稿の質を向上させる

HTML は Web において文書や画像、動画等を用いて情報を表現する手段です。手段であるからには先に表現したい原稿が存在し、それを Web で実現するために HTML でマークアップする手順となるはずです。

しかし HTML の要素の存在が逆に原稿に良い影響を及ぼすこともある事実にここ最近気付きを得ました。それが <dfn> 要素(WHATWG)です。<dfn> 要素は用語の定義を表すもので、HTML の黎明期から存在していましたが、HTML5 になってより詳細な使い方が規定されました。とくに重要なのは以下の一文です。

The paragraph, description list group, or section that is the nearest ancestor of the dfn element must also contain the definition(s) for the term given by the dfn element.

4.5.8 The dfn element(WHATWG)

すなわち、ただ単に用語を提示するだけでなく、その定義を同じ段落中やセクション内などに記す必要があるということになります。

たとえば日本語版 Wikipedia における HyperText Markup Language(Wikipedia)の冒頭の文章は次のようになっています。

HTMLまたはHyperText Markup Language(ハイパーテキスト マークアップ ランゲージ)は、ハイパーテキストを記述するためのマークアップ言語の1つで、プログラミング言語ではない。主にWorld Wide Web(WWW)において、ウェブページを表現するために用いられる。

HyperText Markup Language(Wikipedia)

実際の Wikipedia ページでは「HTML」と「HyperText Markup Language」は <b> 要素による太字表現となっていますが、それらは用語なので <dfn> 要素にするのがより適切でしょう。そして同一段落中にその概略が書かれているため、先に記した <dfn> 要素の仕様と照らし合わせても問題ない構成となっています。

一方で、世の中の書籍や記事には説明なしに用語がかぎ括弧や太字表現で書かれるケースが多数存在します。同じく Wikipedia の HTML ページを読み進めていくと次のような文章があります。

HTMLを表現するための構文としては、HTML構文(HTML Syntax)およびXML構文(XML Syntax)が存在する。XML構文で記述されたHTMLはかつてXHTMLと呼ばれていたが、現在の仕様ではそのような呼び分けは行わない。

HyperText Markup Language - 構文(Wikipedia)

ここでは「HTML構文」と「XML構文」がやはり <b> 要素による太字表現となっており、これらも用語なので <dfn> 要素にしたくなりますが、それらの構文が具体的にどのようなものか説明されていない(2種類の構文があるという事実のみが説明されているに過ぎない)ため、<dfn> 要素でのマークアップは適切ではありません。

では <b> 要素のままにしておくのが適切なのか? 原稿がそうならそうせざるを得ないでしょうが、でも用語なのでやはり <dfn> 要素にしたいところです。すなわちこの場合は原稿を加筆するのがあるべき姿だと思います。

HTML 構文と XML 構文の違いはなんなのか、なぜ2つの構文が存在するのかといった情報は Wikipedia で「HTML」を検索するような人にとっても興味を持たれうることでしょう。しかし実際のところ Web 上の文章でも紙の本でも、このように説明なしに用語が書かれるケースが溢れていますから、文章の書き方としてこのことはあまり意識されていないものと思われます。

本来であればこれは HTML 仕様云々ではなく国語の問題と言えるのかもしれません。しかし正しい日本語表現について専門的に学ぶ姿勢を持たず、一方で HTML はそこそこ囓っている私にとっては、HTML で <dfn> 要素を使うなら用語の定義も文章で表現しなくてはならないと規定されていることによって、原稿に対してそのような意識が向き、結果として原稿をより良い方向へ改善させるきっかけになっているのは事実です。

HTML には 100 を超える多数の要素が存在しますが、このように要素の定義から逆に原稿側に意識が向くのは <dfn> 要素くらいではないかと思います。少なくとも私はこのことに気付いて以降、より積極的に <dfn> 要素を使うようになり、また HTML を使わない紙の原稿においてもそれ相当の書き方を意識するようになり、そのことで結果的に原稿の質が上がっていると感じています。

また用語の定義を文書化するということはその用語を漠然とではなく、他人へ説明できるレベルで理解することが必要となります。これは自身に対しての枷でもあります。その用語に言及するならせめて <dfn> 要素でマークアップできるレベルには理解しないといけないという縛りを入れることで、自分自身の理解向上にも繋がります。

そんなパワーを持った <dfn> 要素ですが、Markdown にその構文が存在しないので、ブログ等ではなかなかに使いづらいのが悲しいところです。