シャフト50周年展の『かってに改蔵』映像に涙した話

昨年末から池袋で開催中のシャフト50周年展(shaft-50th.jp)に行ってきました。私の場合、最大の目的はもちろん『さよなら絶望先生』と『かってに改蔵』であり、ここではその2作品を中心に観覧レポートを記します。

なお本記事は基本的に前期の1月4日朝イチに行った際のレポート記事となります。後期は一部作品の展示資料が差し替えられているものの、それらに深く追求はしないため、本記事を読むうえで気にする必要はありません。一方で当該2作品に関しては展示物の具体的な内容に踏み込んでいるので、これから見に行く予定の方はご注意ください。記事内の掲載写真は特記するものを除き私自身の撮影です。

会場周辺広告

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開場は11時ですが、会場周辺で広告展開が行われているとの話を聞いていたので、少し早めの8時半頃に池袋着。

まずは地下鉄丸ノ内線の中央通路東改札から34・35番出口へ向かう通路へ向かいます。ここでは横長の大型広告2種が掲出されており、通路中央の柱ではデジタルサイネージによる映像広告もエンドレスで流されていました[1]

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「シャフト50周年」のキービジュアル(第3弾)が描かれた横長広告とデジタルサイネージ。後者には「Mixalive TOKYO ファイナルイベント」のリード文が付けられている。オリジナル画像
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改札口から出口に向かって左側の壁の広告はキービジュアルの黒板部分のみを抜き出したイラスト。これは出口側から改札方向を見た構図で、左奥にちらっと見えるのが丸ノ内線中央通路東改札。オリジナル画像

35番出口を上がった先のサンシャイン60通りでは街灯のフラッグ広告が名物になっているのですが、サンシャインシティに向かって左側歩道が今回のイベント描きおろしイラストになっており、駅側から『〈物語〉シリーズ』(6/11キャラ)、『魔法少女まどか☆マギカ』(5/5キャラ)、『さよなら絶望先生』(1/1キャラ)、『ひだまりスケッチ』(1/2キャラ)の13枚が掲出されています[2]。描き下ろしイラスト自体はこのほかに『ぱにぽにだっしゅ!』もあるのですが、これは飾られておらず。

ちなみにキービジュアル(教室の集合イラスト、本イベントでは「描き下ろしビジュアル」と呼称)は渡辺明夫お一人による作画ですが、イベント描きおろしイラストは分担されているようで、我らが糸色望はもちろん守岡英行によるもの(X)です。

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『魔法少女まどか☆マギカ』の先に『さよなら絶望先生』のフラッグ広告がある。佐倉杏子(CV: 野中藍)の次が糸色望の配置とされたのは偶然だろうか。オリジナル画像

糸色望のフラッグ広告の場所まで来るともうサンシャインシティへの地下道通路の入口前なわけですが、そこの大型ビジョン(サンシャインビジョン)には10分に1回の頻度[3]で「シャフト50周年展」と関連イベントである豊島区デジタルスタンプラリー シャフト50周年展✕マンガ・アニメ・トシマ(shaft50toshima-rally.net)の広告が流されていました。「ちいかわパーク」に向かう客への訴求もバッチリ……?

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サンシャインシティへの地下通路のエントランスにある「サンシャインビジョン」に「シャフト50周年展」の広告が流れている様子。オリジナル画像

デジタルスタンプラリー

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そのデジタルスタンプラリーですが、全12か所もあること、そのうち1か所は離れた場所にあり西武電車で移動する必要があること、そもそも観ていない作品もあるなかで知らないキャラクターのスタンプを集めるモチベーションもないことから、コンプリートは目指さず最低限『さよなら絶望先生』だけ取得できればいいかなという感じです。

と言いつつ真っ先に向かったのは『ネギま!?』のある「グランドスケープ池袋」。たまたまサンシャインビジョンから買い物で用のあったアニメイト池袋本店へ行く道すがらに位置するので寄っただけなんだからね?!勘違いしないでよね!

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「furari」のアプリでネギ君のスタンプを表示した様子。オリジナル画像
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糸色望のチェックポイントのあるアニメ東京ステーション。会場入って正面の階段脇にQRコード付きのパネル(ポスター)が置かれていた。オリジナル画像

会場建物広告

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アニメイト池袋本店の 2F コミックスコーナーで12月18日に発売された『シブヤニアファミリー』6巻を探したりしているうちに開場時間(11時)も近くなってきたので、会場へ向かいます。入口上部の広告枠は、映画館時代には上映作品の広告が掲出されていたものの、Mixalive TOKYO になってからはフロア案内の固定イラストになってしまい、中でどんなイベントが行われているのか通行人には分かりづらくなっていました。しかし今回は当施設として閉館前最後のイベントということもあってか、それとも単に全フロア貸し切りだからなのか、ここにもキービジュアル(第3弾)が大きく掲出されているではありませんか。これは何の気なしに通りを歩いていても目に入りますね。

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Mixalive TOKYO の入口。上部に縦長広告枠が6つあり、それをすべて繋いだ形で大きなキービジュアルが掲出されている。入口脇の円柱にも戦場ヶ原ひたぎや鹿目まどかなどのキャラクターが描かれている。オリジナル画像

さらに円柱にもキービジュアルイラストからキャラクターのみを抜き出した形で装飾が施されているのですが、キービジュアルと同じ比率を保っているのか、望が小さいのはちょっと悲しい。

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キャラクターが描かれた円柱。上から糸色望、新藤千尋、桐山零、岸浪ハクノ、桐崎千棘、阿良々木暦、衹堂鞠也。オリジナル画像

このほか10月31日からは建物正面の Mixa ビジョンで30秒広告が1時間に4回程度の頻度で流されていました。これは事前に撮影していたので、この日は確認せず(会期中も流れていたかどうかの事実確認だけはすべきでしたが失念)。ここで流れた映像そのものは公式 TikTok アカウント(www.tiktok.com)で公開されています。

Mixa ビジョン「シャフト50周年展」(ナレーション:神谷浩史バージョン)(YouTube)

展示

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それではいよいよ展示室に入ります。

さよなら絶望先生

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展示フロアは大きく3つに分かれており、最初の展示室1(4F)はシャフトの初期作品のエリアとなっています。このフロアの中で『魔法少女まどか☆マギカ』を別格とすれば、『さよなら絶望先生』は『ひだまりスケッチ』と同じく他作品よりも広いパネルスペースが確保されています。右側が多少切れてしまっているものの、プレス写真で雰囲気を掴むことができるでしょう。

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『さよなら絶望先生』のパネル。写真は展示会開幕のプレスリリース(prtimes.jp)より。©シャフト50周年展製作委員会オリジナル画像

展示された資料は以下のとおりです。

  • 各シリーズのキービジュアル 4枚(1期、2期、2.5期、3期)
  • オープニング原画、レイアウト 32枚(各期8枚ずつ)
  • 小型ディスプレイによる映像 4個(1期、2期、3期、2.5期&3.5期)
  • 表情・全身イラスト 3枚(糸色望、風浦可符香、木津千里)
  • アニメ場面写 21枚
  • スタッフのコメントパネル 4枚(尾石達也、宮本幸裕、山村洋貴、劇団イヌカレー(泥犬))

このうちキービジュアルやアニメ場面写はフロアの飾り付けなど見栄えの面が大きく、ディスプレイも完成映像をすぐ脇の原画と比較するための手段として設置されているに過ぎないものと考えると、資料展示の側面からすれば原画、レイアウト、表情、表情・全身の35点が展示物であるといえるでしょう(コメントパネルを含めた39点との考え方もできる)。

10年前の MADOGATARI展(www.madogatari.jp)ではキャラクター設定(全身、表情など)、絵コンテ、原画、レイアウト合わせて57点[4]であったのと比べると規模は縮小され、さらに各シリーズのオープニング素材が大半を占めており本編の資料は(場面写を除けば)ゼロというバリエーションに欠けたものとなってしまいました。

これは他作品も同様の印象で、正確に数えたわけではありませんが全体的に展示の点数は減っていると思います。MADOGATARI展はとくに「キーアニメーションゾーン」においてともかく1枚でも多くの資料を並べる方針が見られ、壁一面に足元までぎっしり並べるに留まらず、一部では上にも原画を並べたことで、文字どおりとても首が回らない状態であったのと比べて、そもそものコンセプトが異なっていると感じています。今回の50周年展は久保田光俊社長のインタビュー(www.animatetimes.com)作品にフォーカスしたものよりは、作品を作ってくれた人にフォーカスしてできたらいいと語られているように、作品毎にテーマを決めて、それに沿った選定をしているということでしょう。

『さよなら絶望先生』は原作由来のシニカルなギャグがなによりの魅力ですが、アニメ表現としては前衛的なオープニングに度肝を抜かれた視聴者も多いことでしょう。それを形作ったのが大槻ケンヂであり、尾石達也であり、また劇団イヌカレーであることは疑いようがなく、社長のインタビューで例えば「OPだけにしよう」とか割り切るけれど、濃い内容になるように意識しながらとあるように、本作では本編資料の展示を諦めてでもオープニングのみに絞る判断が行われたのだと受け取っています。欲を言わせていただくと、もしもっと広いスペースが確保できたならば、他作品にない特徴として『【俗・】さよなら絶望先生』七話Cパートの技法実験回などは入れて欲しかったとは思いますが。

そのような判断で絞られたであろうオープニングから、具体的にどのカットが選定されたのかを洗い出して検証したい……と思うのですが、これは長くなりそうなので別記事で改めてやることにします。すでに展示をご覧になった方は、今回初出の原画の中で完成映像にはない表現が行われているカットの存在にお気づきかと思いますが、そのあたりも含めて取りまとめる予定です。

さて、『さよなら絶望先生』のパネルの先はカーテンで仕切られているのですが、その脇に久保田社長のメッセージが書かれたパネルがあります。一語一句までは記憶できていないのですが、『月詠』以降、作品ごとに映像表現としてのカラーが出せるようになり、『ぱにぽにだっしゅ!』『ひだまりスケッチ』『さよなら絶望先生』を経て『化物語』と『魔法少女まどか☆マギカ』に結実したといった旨のことが書かれていました。現在もシャフトの2大作品と言える『〈物語〉シリーズ』と『魔法少女まどか☆マギカ』シリーズが、新房昭之監督の存在はもちろんのこと、その他の個性的なスタッフらが2000年代に手掛けてきた作品での挑戦あっての成功である事実は今さら言うまでもない自明のことではありますが、それが活字で明言されたことはほとんどなかったと思います。とくに『【獄・】さよなら絶望先生』においてもしも宮本幸裕が劇団イヌカレーを引き込んでいなかったら、『魔法少女まどか☆マギカ』の映像表現はまったく別物になっていたことでしょう。この2大作品はシャフトという会社だから、あるいはシャフトのスタッフが作ったからこそ成功したのだというメッセージが社長自らの言葉として、この節目のイベントで提示されたことは大きな意味を持つと思います。すぐ先に『魔法少女まどか☆マギカ』の展示があるという設置場所の問題もあってか、このパネルの前で足を止めている人は多くはなかったのですが、全来場者は目を皿のようにして読むべき文章です。

作業デスク

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同じく 4F の展示室2 は全体が『〈物語〉シリーズ』をはじめとする西尾維新作品のエリアになっているのですが、描き下ろし映像が上映されている一画にはスタッフの作業デスクであろうものが展示されています。そのデスク上には作品に関連する小物やら資料やらが置かれるのですが、これがなんと毎日差し替えられているようです。下表に1月10日までの展示内容をまとめました。

日付 展示物 写真
12月26日(内覧会) さのすけ 「スパイス」の内覧会レポート記事(spice.eplus.jp)
12月27日 さのすけ @air_dotter@x.com の投稿 2025年12月29日8:43(X)
12月28日 『ひだまりスケッチ』の資料 @air_dotter@x.com の投稿 2025年12月29日8:43(X)
12月29日 『〈物語〉シリーズ』の資料 @air_dotter@x.com の投稿 2025年12月29日13:23(X)
12月30日 原画集等およびその資料 @air_dotter@x.com の投稿 2025年12月30日17:54(X)
12月31日 神原駿河の部屋再現および原画 @air_dotter@x.com の投稿 2025年12月31日16:10(X)
1月2日 正月を意識したグッズ @accelerator0103@x.com の投稿 2026年1月2日16:13(X)
1月3日 正月を意識したグッズとさのすけ @air_dotter@x.com の投稿 2026年1月3日21:20(X)
1月4日 『マギアレコード』こねこのゴロゴロ 背世のブログ記事(note.com)
1月5日 『月詠』『ef』『かってに改蔵』の資料、原作者サイン色紙など @Mixkankitsu@x.com の投稿 2026年1月6日7:44(X)(閲覧は要ログイン)
1月6日 『それでも町は廻っている』『幸腹グラフィティ』の資料 @air_dotter@x.com の投稿 2026年1月6日22:21(X)
1月8日 『魔法少女まどか☆マギカ』表彰物と原画 @air_dotter@x.com の投稿 2026年1月8日18:25(X)
1月9日 『電波女と青春男』『メカクシティアクターズ』の資料 @air_dotter@x.com の投稿 2026年1月9日14:33(X)
1月10日 『〈物語〉シリーズ』の資料 @animmony@x.com の投稿 2026年1月10日20:33(X)

ときおりさのすけが在席いや在机しているほか、1月5日には他作品に混じって『かってに改蔵』の資料が置かれていたことは特筆に値します。第1巻(上巻)の改蔵と羽美の全身イラストと背景のカラーイラストが置かれていたのですが、これらは初公開の資料ですね。MADOGATARI展で下巻の全身イラストが8枚展示されたことはありましたし、ブックレットで色の付いた完成画が載ってはいるものの、上巻用のイラストで影付け指示のコメントが書かれたラフ稿は初めて見ました。こういった重要資料を予告なく日替わりで出してくるからシャフトのイベントは油断できません。

ポスター集

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展示室2 を抜けてエレベーターで 6F に上がると、そこからは階段で 9F まで上がる形になります。この壁面には歴代のポスターが並べられており、7F 付近には『さよなら絶望先生』シリーズのポスター1期、2期、3期の計3枚がみられました。

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階段の壁に並べられた6枚のポスター。下から『ef - a tale of memories.』(2007年10月)、『ひだまりスケッチ』(2007年1月、2種)、『さよなら絶望先生』(2007年7月)、『【俗・】さよなら絶望先生』(2008年1月)、『頭文字D Extra Stage2』(2008年12月)。オリジナル画像
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7F 踊り場の『【懺・】さよなら絶望先生』(2009年7月) と『化物語』(2009年7月) のポスター。後者は渡辺明夫のサイン入り。オリジナル画像

その他の作品も含めておおむね年代順に展示されているのですが、なんと2011年の場所に『かってに改蔵』がないのです。シャフトにとって『改蔵』はポスターを掲出するに値しない作品だったのでしょうか。もし社内にポスターが保管されていないだけのことでしたら、私の所持品を差し上げますので連絡ください(マジで)。

かってに改蔵

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9F の展示室3 はシャフト50年の歴史を「守」「破」「離」の3つの時代に分けたうち、最後の「離」のフロアです。すなわち『〈物語〉シリーズ』と『魔法少女まどか☆マギカ』を世に出した2011年冬アニメより後の作品となります。その最初の作品のひとつとして『かってに改蔵』があるのですが、小さなパネルにキービジュアルと解説文があるのみで原画等の資料展示はありません。MADOGATARI展では少ないながらも設定画と原画が展示され、4会場目の名古屋では会場ビジュアルに山村洋貴による改蔵が描き下ろされた(X)くらいでしたが、それから10年経ってこの扱いとは悲しくなります。

ところで 9F の展示を見ていると、奥から「君の知らない物語」のイントロが聞こえてきます。展示の最後に『化物語』のミニコーナーでもあるのかと思いながら足を進めると、カーテンで仕切られた部屋にディスプレイが設置され、そこにはシャフト作品のキャラクターが走る映像が流されていました。

「THE RUN.」と名付けられたその動画はシャフトの歴代作品でキャラクターが“走る”シーンのみを抜粋して繋ぎ合わせたもの。『十二戦支 爆烈エトレンジャー』(1995年) から『忍者と殺し屋のふたりぐらし』(2025年) まで30年分のキャラクターが走る中、『さよなら絶望先生』(1期) オープニングで望が走るシーンが出てきたところまでは“分かり”ます。そりゃあ『絶望先生』で走るシーンと言えばここでしょう。個人的にはよりキャラクターに焦点を当てる意味で藤吉晴美が走るシーンも推したいところではありますが。しかしそのあと2作品を挟んで『かってに改蔵』上巻で改蔵くんが廊下を走るカット(叫ぶしびんの会を追うシーン)が流れた時、ふいに涙が流れ出てしまったのです。

……ああ、シャフトは『改蔵』を忘れてはいなかったのだ。

思えば『改蔵』は不遇なことばかりでした。宇宙一おもしろい作品(※オレ調べ)にも関わらず一向にアニメ化がされず、それっぽい流れが来たかと思いきやぬか喜びに終わり、連載までもが終了してしまう。我々読者が、そしておそらく久米田先生もが石をぶつけられて床に落ちた骨を口で拾わされていた[5]中、あっちの作者の作品ばかりが評価される屈辱の日々は一生忘れません。長い土の中の生活を終え、2007年に『絶望先生』のアニメ化が決まった時、嬉しい気持ちよりも今さら信じられない思いが勝り、放送当日まで実感がまったく沸かなかったのは私だけではないはずです。そのアニメが一段落した時、突如発表された『改蔵』愛蔵版の発表とドラマCD化、そして10年以上夢に見続けたアニメ化。キービジュアルに記載された遂に!!まさかの!?のキャッチコピーはネタでも何でもなく、僕らの10年分蓄積された魂の叫びそのものでした。東日本大震災後の混乱がまだ続く中、帰宅して届いた上巻の Blu-ray ディスクをパソコンのドライブにセットし、震える手で再生ボタンを押したあの瞬間は今も鮮明に覚えています。『絶望先生』の一話はそれが放送された事実そのものに感動したのですが、『改蔵』は『絶望』とはまた違う感慨があったのです。

しかし『改蔵』は OVA 3巻の発売をもって予定どおり終了。11月にはラジオも最終回を迎えたことで、我々が本当に夢見た「TV アニメ化」は遂に実現することはありませんでした。そして MADOGATARI展を経ての今。「THE RUN.」の映像に『改蔵』が流れた瞬間、毎週水曜日のサンデー発売を心待ちにしていた日々から現在までのことが走馬灯のように一瞬で頭を流れ、感情が抑えきれなくなってしまったのです。

この日、本当は同行者がいるはずだったのですが諸般の事情で一人で回っていました。感想を共有する相手が居なくて寂しいなと直前までは思っていたのですが……いやあ、一人でよかった。たぶんこの時は他人には見せられない表情をしていたと思います。そして数秒が経ってやや落ち着きを取り戻した時、他の観覧者もきっと『改蔵』を見て泣き崩れているに違いないと思い周りを見てみると……、みんな普通に見てるのね(笑)。あれ、泣いてるの私だけ? 映像の最後に過去作の流用でない新規作画のひたぎとまどかが現れた時、何人かが小さな歓声を挙げていたのですが、いやそこじゃないだろ。感動するところは『改蔵』だろうとツッコみたくなったのですが、さすがに声に出すのは躊躇して心中に留めた次第です。

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「THE RUN.」のラストシーンの新規カット。ひたぎとまどかが並んで走っている。画像は後期紹介のプレスリリース(prtimes.jp)より。©シャフト50周年展製作委員会オリジナル画像

色紙

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この映像コーナーは入れ替え制ではなく、(おそらく常識的な範囲内で)何回でも見ることができるのですが、数回ループして平常心を取り戻した頃、最後に色紙コーナーがあることを思い出しました。すでに別の方の報告でそこに久米田先生の色紙があることは分かっています。「THE RUN.」は感動的な映像でしたが、こんなところで心を乱されている場合ではなかったのです。それにしてもシャフトも酷なことをしますね。展示の最後に2連続で破壊力の強いものを用意してくるなんて。

映像部屋を出るとなんの緩衝地帯もなく色紙コーナーとなります。く、久米田先生の色紙はどこだ。探すまでもなく入ってすぐの左壁、新房監督の隣に配置されていました。他の名だたる漫画家やアニメーターを差し置いて2番目ですか。配置順序に格差があるわけではないのでしょうけれど、それにしても……という感じです(謎)。そしてそのコメントも久米田先生らしさ全開で素晴らしいものでした。

またアニメーターの中にも『絶望先生』や『改蔵』のイラストを描いてくださった方々が複数いらっしゃいます。守岡英行、山村洋貴はもちろんですが、『絶望先生』シリーズで作画監督などを務めた潮月一也もちゃんと『絶望』キャラを描いてくださっています。さらに「シャフト○○部」の連名による色紙にも『絶望』キャラが複数あり、15年以上前の作品にも関わらず今も愛してくださっていることに嬉しくなった次第です。

そして、こういった色紙企画では珍しく亀山俊樹ほか音響監督も参加されていたのは良い傾向だと思います。アニメーションは絵だけでなく音も大切な要素であり、事実「声優」は今やまるでタレントやアイドルのような扱いもされているのに対し、どういうわけか音響面のスタッフにスポットライトが当たる機会は少ないように思います。インタビューではときどき音響監督が参加されることはあり、実際『絶望先生』関係でもキャラ☆メル Vol.5(Amazon)別冊オトナアニメ シャフト超全集!!(Amazon)、そしてさよなら絶望先生全書(Amazon)でそれが見られるのですが、こういった色紙企画や、あるいはトークショーへの登壇にも(ご本人が嫌でなければ)出てきて欲しいですね。

総括

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本展示会は2月に公開が予定されている劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉(www.madoka-magica.com)のプロモーションを兼ねたものだと予想していました。シャフトの創立記念日は9月1日であるのに対し、イベントの開催が12月までずれ込んだのがそのように考えた理由のひとつです。しかし蓋を開けてみればことさら『まどか』を大きく取り上げるわけではなく、むしろ展示規模から言えば『〈物語〉シリーズ』の方が広く取られているくらいです。ごく普通に会社の50周年を記念した展示会である、といえるでしょう。

そのうえで10年前の MADOGATARI展の続き物ではなく、明らかにコンセプトの異なる展示会だと感じました。どちらが良いかという比較をすべきではないのかもしれませんが、個人的には久保田社長がおっしゃっていたように作品だけでなく制作スタッフにフォーカスを当てていることは評価をします。これはアニメ作品のイベントではなく制作会社のイベントだからです。

極端なことを言えば、フロアやパネルを作品別に分ける必要すらないと思います。正直に白状すると私はシャフトの全作品を観ているわけではありません。というか半分にも満たないです。なのでこういった展示会で知らない作品のパネルは流し見で済ませてしまいます。しかし例えば「尾石達也エリア」として『さよなら絶望先生』と『まりあ†ほりっく』と『化物語』の展示を混在させたとしたら、私は『まりほり』を観ていないもののきっとその作品の資料もじっくり観察することになるでしょう。もしかしたらその流れで『まりほり』のアニメそのものも観るきっかけになるかもしれません。一ファンの個人的な興味に基づく希望に過ぎないことではありますが、そういう展示があっても良いのではないかと思います。

次に『かくしごと』に触れないわけにはいきません。今回の展示会で唯一残念だったのは、2016年に作られた『かくしごと』PV への言及が一切なかったことです。2020年の TV アニメ化の際には制作会社が変わり、それはおそらくシャフトとしても望んだ結果ではなかったものと推測します。YouTube ほかで公開されていた PV が削除されてしまったことも、残念ではあるものの理解と同情もできました。しかし今回のような会社の歴史を振り返るイベントで存在すら触れられないとなると話は変わってきます。そこまで腫れ物の扱いなのでしょうか。

例えば2019年に公開された池袋PRアニメ(www.city.toshima.lg.jp)は展示室3 で小さいながらも紹介がありました。そこではその他いくつかの PV 作品も紹介されていました。また2020年の『HUNGRY DAYS ワンピース』の CM は 6F シアターフロアのエレベーターホールに掲出された「沿革」に制作実績として記載されています。なので PV のような短い映像の実績は本イベントの対象外、というわけではないと思います。

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「沿革・主な作品」のパネル。1975年から2025年までの年表が書かれている。オリジナル画像

MADOGATARI展のときは東京アンコール会場で当時制作されたばかりの『かくしごと』 PV の原画展示があったし、TVCM や渋谷の街灯ビジョンでも流れていたし、2016年に開催された原画展「一挙後悔中」や2017年に湯前で開催された「久米田康治のかくしごと展」ではエンドレスで映像が流れていて気の済むまで見続けたこともあり、そして当時は『かくしごと』も近いうちにシャフトでアニメ化されるはずだと信じていた思い出深い PV なのになぁ……。今後もし社史を発行することになった際、そこでも無視されてしまう心配もあります。

ただし私はシャフトが制作した PV や CM の事例をすべて知っているわけではないので、他にも言及のない作品があるのかどうか、すなわち『かくしごと』PV の言及がないことが正当なのかどうかは判断できません。識者の意見を聞きたいところです。

そして気になるのは地方巡回の有無、図録販売の有無、「THE RUN.」の展示会以外での公開の有無といったところでしょうか。MADOGATARI展の当初告知は3会場、後に追加されて計6会場での開催となり、当時会場で流されていた映像類は追加会場で図録とともに販売される形になっていました。今回は図録どころか別会場の告知すら不透明です。先に『まどか』新作のプロモーション要素が意外と少なかったと記しましたが、ひょっとして追加会場でそのあたりを入れ込んでくるのか、なんて妄想も……。さてさてどうなることやら。

脚注