えちぜん鉄道に残る東急デハ3500形のMMC-H-10K主制御器
以前、何気なくえちぜん鉄道の車両機器一覧を見ていたところ、MMC-H-10K形主制御器を装備したMC1101形という車両がいることを知りました。
改めて説明するまでもないと思いますが、この機器は日立製のカム軸式主制御器で、デハ3450形やデハ3650形など、旧3000系グループの中でも末期まで残っていた車両の一部に装備されていたものです。
さて、気になってMC1101形(現在はMC1102の1両のみ在籍)について調べてみると、1998年に豊橋鉄道1900系の各種機器を利用して新性能化工事が行われたようです。豊橋の1900系といえば、床下機器のうち主制御器は名鉄モ3880形すなわち元東急デハ3700形のものを利用したということは以前から聞いており、ひょっとしたら名鉄と豊橋を経たものが使用されているのではないかと思い、確認のため2009年に現地を訪問したところ次の2点が分かりました。
- 主制御器は今も MMC-H-10K を使っている
- 装置の前面蓋に「3509」という車番らしき数字が残っている
これだけでは東急由来のものか確証が持てなかったので、再訪して機器の銘板を確認しようと思ったのですが、運用機会が少ないのか車庫で休んでいることばかりで、先日5回目の訪問でやっと捕らえることができました。
夕暮れ間近の撮影で鮮明ではありませんが、
- 形式
- MMC H-10K1
- 製造番号
- 830241-2
- 製造年月
- 昭和46年3月
と読めます。
一方、サイトで情報を募っていたところ、1991年に豊橋鉄道の機器を調べていた方がおられまして、調査データを提供いただきました。東急電鉄に関係している部分のみ抜粋します。
車号 | 前歴 | 主制御器形式 | 製造番号 | 製造年月 |
---|---|---|---|---|
モ1731 | 東急デハ3550形 | MMC LH-10D1 | 896977-2 | 昭和32年 |
モ1751 | 名鉄モ3730形 | MMC H-10G1 | 896701-14 | 昭和32年 |
モ1811 | 長野モハ1100形 | MMC H-10D | 894647-4 | 昭和29年1月 |
モ1901 | 名鉄モ5200形 | MMC H-10G | 896000-3 | 昭和31年 |
モ1951 | 名鉄モ5200形 | MMC H-10G | 896000-2 | 昭和31年 |
モ1902 | 名鉄モ5200形 | MMC H-10G1 | 896971-1 | 昭和32年 |
モ1952 | 名鉄モ5200形 | MMC H-10G1 | 896971-12 | 昭和32年 |
モ1903 | 名鉄モ5200形 | MMC LH-10D1 | 896977-3 | 昭和32年 |
モ1953 | 名鉄モ5200形 | MMC H-10G | 895867-2 | 昭和31年 |
モ1904 | 名鉄モ5200形 | MMC H-10K1 | 830241-5 | 昭和46年4月 |
モ1954 | 名鉄モ5200形 | MMC H-10K1 | 830241-4 | 昭和46年4月 |
モ1905 | 名鉄モ5200形 | MMC H-10K1 | 831481-3 | 昭和49年11月 |
モ1955 | 名鉄モ5200形 | MMC H-10D | 894647-7 | 昭和29年2月 |
モ1906 | 名鉄モ5200形 | MMC H-10K | 924032-2 | 昭和45年4月 |
モ1956 | 名鉄モ5200形 | MMC H-10K1 | 830241-2 | 昭和49年11月(おそらく記録ミス) |
製造番号を照らし合わせると、MC1102の主制御器は豊橋モ1956と同じ事が分かります。
ただし製造年月が一致しないのですが、製造番号が近いモ1904、モ1954と比較して昭和49年製であるとは考えにくく、これは提供者自身も気づかれており記録ミスと思われます。また、十和田観光電鉄に残っていたモハ3603の主制御器(MMC-H-10K1)は昭和49年11月製の 831481-1 だったので[1]、これと兄弟番号の豊橋モ1905が昭和49年11月製であることは間違いないと思われ、やはりモ1956の年月のみが誤っていると考えられます。
さらに、前面蓋の「3509」から推定して東急デハ3500形がMMC-H-10K形に交換された時期(1969(昭和44)年から)とも矛盾はないこと、デハ3509の廃車(1989年3月)と豊橋モ1956の竣工(同7月)の時期からしても自然な流れであるため、「えちぜん鉄道MC1102の主制御器は東急デハ3509のものが豊橋鉄道モ1956を経由して京福電鉄に再譲渡され、(えちぜん鉄道となって)今も使用されている」と断定して間違いないでしょう。
最後にちょっとした余談ですが、MC1102はその後検査を受けたのか、主制御器が再塗装されて「3509」の表記も消えてしまいました。今となっては予備知識なしに出自を推定するのは不可能と思われ、検査前に外観を記録できたのは幸運だったとしか言いようがありません。また、豊橋時代の機器番号を調査されていた方が居られたのも良い意味で想定外でした。もちろん他にも情報やコメントは引き続き募集しています。Eメール、ブクメ、Twitterなど手段は問いませんので、お寄せいただければと思います。
2012年11月23日追記えちぜん鉄道MC1101形の主制御器(MMC-H-10K)(w0s.jp
)のページも更新しました。
脚注
-
1.
調査は2006年と2009年に行いました。また鮮明な写真で記録しているので、間違いはありません。 ↩ 戻る