世田谷線300系の「310F のみ新製台車」の誤解

世田谷線300系車両の台車 TS-332 型(w0s.jp) はデハ70形、デハ80形からの流用品であることは周知の事実ですが、増備の過程で数が不足するため一部の個体は新製されています。

これに関して複数の文献で「最終増備の 310F のみ新製台車を履用している」旨の記述が見られますが、結論から言うとこれは誤りです。2004年のピク東急特集号あたりが初出なのではと思いますが、今年(2023年)に入ってからも、とある鉄道趣味雑誌でそういう記述を見かけまして、製造から20年以上経ってもこの誤解が解けないことにショックを隠せません。

310F のみ台車も新造されたと誤った説明をしている記事の例(鉄道ピクトリアル 2004年7月臨時増刊号 p.231)

旧型車時代、デハ70形は8両、デハ80形は6両の陣営で、1994年〜1997年のカルダン駆動化にあたりそれまで1台車1モーターであったものを連結面側は M 台車、運転台側は T 台車の方式に変更していたので、当時の TS-332 型は M 台車、T 台車とも14台ずつが存在したことになります。

旧型車時代の TS-332 型台車(デハ77、連結面側)

300系は2両固定の連接車が10編成製造され、連接部分が T 台車とされましたから、M 台車が20台、T 台車が10台となります。そのため、旧型車からの台車流用にあたり T 台車の一部を M 化改造してもなお2台が不足する計算となります。そう、不足したのは1編成分(3台)ではなく2台なのです。実際のところは T 台車6台を M 化したうえで、T 台車2台が新製されているので[1]、300系全10編成が出揃った2001年当時、新製台車は2編成が履用しており、逆にその時点では M 台車はすべて流用品だったため新製台車のみを履用していた編成は存在しなかったはずです。

さて、旧型車時代はデハ80形2両が両運転台で残されており、検査時の予備車を兼ねた運用をしていましたが、300系はそのようなことができないため台車など一部機器は予備品を使用してのループ運用がなされています。このあたりの事情は2019年に発行された「東急電鉄 車輌と技術の系譜」(著: 荻原俊夫)に具体的なことが記載されています。

世田谷線では平日ラッシュ時の最大使用本数は9本のため1本の予備車しかなく、定期検査は金曜日のラッシュ後から日曜にかけて実施することにした。台車、主電動機などの電機部品は予備品と交換、車体はステンレス製で大きな補修はなく、車輛を有効利用している。

「東急電鉄 車輌と技術の系譜」第6章 軌道線の車輛 p.143

このようなループ運用をするにあたり、予備品確保のため2004年に M 台車2台、T 台車1台が新製増備されています[2]

その結果、現在では TS-332 型の出自は以下の3つに分類できます。

分類 M 台車 M 台車(T 台車からの改造) T 台車
デハ70形、デハ80形からの流用 14台 6台 8台
2001年の新製(不足分増備) なし なし 2台
2004年の新製(検査予備確保) 2台 なし 1台

なお、現車調査による全33台の製造年、改造年データを東急300系 TS-332 型台車製造年一覧(w0s.jp) に掲載したのでご参考にどうぞ。

脚注

  • 1.

    台車銘板の現車調査による。 ↩ 戻る

  • 2.

    軌道運転規則第二十八条(elaws.e-gov.go.jp) では、懸垂式鉄道(モノレール)などを除く旅客電車の重要部検査の期間が4年以内と定められているため、301Fの最初の重要部検査は2003年に行われたものと思われます。しかし、台車の増備は2004年製造と1年のズレがあるのは不可解なところです。当初は何かしらの方法で予備品なしで乗り切っていたのでしょうか。 ↩ 戻る