コミックマーケット95 3日目 鉄道本

C95の3日目、一般入場列の待機列がなくなる頃を見計らって11:15頃に会場着。西2ホールの鉄道島へ向かい、東急関係では2冊の本を購入しました。

西う44a 生麦検車区「Tokyu Corporation Series 8500 〜内装探訪本〜」

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8500系の室内の形態バリエーションを紹介した本。東急8000系グループの室内形態の変遷は魔境と呼べるほど一筋縄では理解しづらい状況となっていますが、この本では田園都市線に現存する8500系に的を絞ったうえで、まず「非軽量車(未更新車)」「非軽量車(更新車)」「軽量車」「後期軽量車」の5つに大きく分類し、その中で座席やドアなどの各パーツを細かく見ていく構成になっています。複雑怪奇なものをいかに分かりやすく分類し伝えるかという観点において、「非軽量車」「軽量車」といった大区分を採用されたのは、既存の形態分類本では見られなかったやり方であり、今後の研究発表として参考にすべき点もあるかと思います。

一方、その区分にこだわるあまりか、不適切な説明になっている箇所が多く、また筆者の事実誤認とみられる記述も見受けられました。いくつか気になった点をピックアップします。

  • p.02: 「非軽量車」の定義について1980年までの増備車、車体構体が東急8000系と同様の車両をここでは非軽量車と呼称する。と書かれていますが、12-2次車(8500系ではサハ8941〜8946の6両)は8090系登場後の1981年製ながら軽量車体ではありません。また狭義の8000系がすべて非軽量車であるような書き方となっていますが、軽量試作車の2両と12-3次車以降は軽量車です。
  • p.03: 天井スピーカーについて、独立した予備灯(丸い白熱灯のアレ)が存在したのは11次車までなので、その撤去跡地に設置された小型スピーカーも同様に11次車までのものです。「根岸旭台鉄道研究所」の東急8000系研究室 天井編(toq8247.travel.coocan.jp)に詳しく紹介されています。
  • p.05: 更新車の天井スピーカーについて、また、一部車両は大型スピーカーの撤去も実施している。と書かれていますが、本当に「一部」でしょうか? たぶん更新車は例外なく全車撤去のような[1]
  • p.07: 軽量車の側面ドアについて、ドアコック蓋と客用扉は基本的に非軽量車から変わっていないが、客用扉取っ手のカバーがなくなっている。と書かれていますが、カバーがなくなったのは14次車以降であり、非軽量車と軽量車の違いとは無関係です。
  • p.08: なお、軽量車から予備灯が蛍光灯に変わったため、電球予備灯は廃止された。と書かれていますが、これは12次車からであり、やはり非軽量車と軽量車の違いとは無関係です。
  • p.09: 1986年以降の増備車を後期軽量車と呼称する。と書かれていますが、「1986年」は「1986年度」の誤植と思われます。1986年1月〜3月にかけて8635Fと8636F、また既存編成組み込み用の中間車も含めた17-2次車が入籍しているので。
  • p.14: 非軽量車の支え金具には両端のパイプ間に穴が開いているが、軽量車以降は省略された。と書かれていますが、穴が省略された(=製造当初から金網式になった)のは12-1次車および13次車以降であり、非軽量車と軽量車の違いとは無関係です。8500系はたまたま13次車から軽量車体になっているわけですが、8000系では12-3次車において「軽量車ながら塩ビ管式の荷棚で製造された車両」が存在しました。
サムネイル画像
8000系12-3次車の荷棚(デハ8159)オリジナル画像

西う44b Thousand_island「light trail of thousand」

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1000系グループに関して、譲渡車も含めて詳しく紹介した本。表紙、裏表紙含めてちょうど100ページという分量も、著者のこだわりでしょうか。

1000系グループは製造時期別の形態バリエーションこそ多くはないものの、日比谷線直通用、東横・目蒲線共通予備車、池上線向けと用途によって搭載機器や車両外観が大きく異なり、また比較的新しい18m車ということもあってか最近では地方私鉄への譲渡も積極的に行われるなど、趣味的に見て研究しがいのある車種であることは間違いないのですが、これまでまとまった研究実績を見かけることはありませんでした。

本書は1000系、1000N系、1000N′系、および1000系1500番台、そして上田、伊賀、一畑、福島の譲渡車両に関して、車両概要、年表、搭載機器などを写真と図をふんだんに利用して紹介されており、1000系グループの教科書とも言える内容に仕上がっています。とくに24〜25ページにかけての1000N系の編成替え変遷の図は分かりやすいですし、また「各車種構成」では床下、屋根上機器の配列が精細なイラストで再現されており、さらに機器の移設元の記載や特定車両の差分も記載されており、痒いところに手が届くすばらしい出来映えです。

欲をいえば、1000系が誕生した理由そのものとも言える「日比谷線直通」という面において、先頭車正面の連結管や7号車のレスポンスブロック受け、またIRアンテナと連結面の昇降梯子の関係性についても紹介があれば良かったかなとは思いました。

また1点気になったのが、車歴表の入籍日や廃車日などは各種趣味誌に記載されている年月日を用いております。とだけ書かれていて、具体的な参考文献が記されていないことです。入籍日などのデータは文献によってブレが見られるケースが多々ありまして、1000系の東急入籍日に限ってみても、私の知る限りだけでも全113両のうち3割を超す39両は、複数の著名誌で日付が異なる例が見られます。例えば 1010, 1011, 1210, 1211, 1310, 1311, 1360, 1361 の8両の入籍日は、「新車年鑑」「鉄道ダイヤ情報(私鉄車両の動き)」「鉄道ジャーナル(私鉄車両のうごき)」では1990年3月30日なのに対し、「鉄道ピクトリアル」増刊の東急特集号(1994年版、2004年版、2015年版)では1990年3月31日となっています。本書 p.72 では3月31日が採用されているため、ピク東急特集号を参考にしたものと推測されますが、このようなこともあるので何かしらの資料を参考にしたのであれば、巻末等でソースを明記すべきではないでしょうか。

いずれにしても、全体的には商業誌として発行されてもおかしくないであろう、充実した内容と思います。同人誌かつ電子版なしという性格上なかなか気軽に入手というわけには行きませんが、東急電車ファンにはおすすめの1冊と言えるでしょう。

脚注

  • 1.

    これを証明できる現車調査ノートがあるのですが、すぐ出せる場所にないのでとりあえず疑問系の問いかけという形にしておきます。すみません……。 ↩ 戻る