コミックマーケット97 4日目 鉄道本

C97、今回はフリー入場になった後もリストバンドが必要だったり、ホール入場時の手荷物検査をしっかり行っていたり[1]と、C96と違う点がいくつか見られました。

鉄道ジャンルのある最終日の4日目は、午前中に別件があったため会場到着は13:30頃。すでに入場待機列もなく、手荷物検査はあれどホール入りはすんなりできました。

  1. 西あ13b Thousand_island「東急1000系資料集 growth ring」
  2. 西あ14b 東横商会「よろよろなななな」
  3. 西う18b Trainoir「駅構内・車内英語放送事例解説BOOK Vol.1 北海道・東日本編」
  4. 西う30a Yukigaya-8「雪が谷検車区全車調査簿2019」

西あ13b Thousand_island「東急1000系資料集 growth ring」

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東急1000系について詳細に書かれた本で、1年前のC95で頒布された「light trail of thousand」を内容増強したもの……らしいのですが、なんとサークルスペースに着いた目の前で完売札が貼られてしまいました。再販に期待です。

2020年1月28日追記ありがたいことに通販による再販(1000island.booth.pm) が行われましたので、入手することができました。以下に感想を追記します。

前号と比較して、序章に1000系の基本的な解説が8ページにわたって差し込まれています。

1000系といえば車体が似ている9000系、2000系と比較されることが多いのですが、本書では7600系との関係性を記したページがあります。7600系の実績を元に1000系が誕生した、という明確な記述こそ各技術書類を眺めていても見つけられないがと書かれているように、7600系という存在自体がマイナーなためか比較対象として挙がった例は私も見たことがありませんが、業界向けの技術誌はともかくとしてファン向けの媒体ではこういう視点があっても良いと常々思っていたところで、よくぞやってくれたという感があります。また9000系との比較についても、これまでは専門誌でわずかに取り上げられたのみであった車輪軸受の電蝕現象への言及があるなど、細かな点まで網羅されているのは素晴らしいところです。

以下、気になった点です。

冷房装置は容量10000kcalのRPU-2214Bを各社3基ずつ搭載しており、床下にある冷房制御器(インバータ)で能力可変制御、除湿運転が可能となっている。

p.20 東横線1000系 ー その他機器 ー 冷房装置

この一文を読むと、「能力可変制御」が1000系の新機能であるかのように受け取られてしまう可能性がありそうです。従来方式(RPU-2204型シリーズやRPU-2214型、RPU-2214A型)でもサーモスタットによる可変制御自体は行っていたものを、マイコン制御の導入により無段階制御が可能になった、ということではないでしょうか。

また、冷房装置の形式については1000系の増備途中で圧縮機を従来のレシプロ式からスクロール式へ変更したRPU-2214C形に変更されているので[2]、その旨の記載はあった方が良いと思いました。

日比谷線内で自走不可状態になった場合などに備え、他社車両と連結の上救援走行することを想定し、東横線向けの1000系、共通予備車の1000N系にのみ空気管が2本多く設置されている。

製造時は他社同様赤いコックが設置されていたが、後年は取り外されているようである。

画像では一番上が1000系のものであるが、右側に設置されている。

p.21 東横線1000系 ー 日比谷線直通設備 ー 非常連結栓

全体的に分かりにくい記述です。空気管が2本多く設置されている製造時は……設置されていたが、後年は取り外されているという文章からは、

  • 製造時: 他車より3本多い(計4本)
  • 後年: 1本外されて他車より2本多い(計3本)

というように受け取れてしまうと思います。実際は3本→2本ですね。

また、最後の段落の右側に設置とは何を指したものなのか分かりませんでした。見出しのとおり赤い蓋の非常連結栓の事であるなら(向かって)左側ですが。

当時の地方私鉄向けの車両としては最新の装備を持ち、VVVF制御、ボルスタレス台車、ワンハンドルマスコンなどの機構は甲信越地方の私鉄においては初採用となった。

p.72 上田電鉄1000系 ー 車内概要

ワンハンドルマスコンはアルピコ交通3000系や長野電鉄8500系などの前例があります。北越急行HK100形に至ってはこれら3点をすべて備えた新車ですが、本書で言う私鉄は第三セクターを含めない定義なのでしょうか。

ほか、細かい部分を列挙します。

  • 2007年に登場した7000系の表記が箇所によって「7000系」「新7000系」と揺れが見られるのが気になりました。
  • p.1(目次): 「上田電鉄1000系」となっているのは正しくは「上田電鉄1000系/6000系」かと思われます(前書「light trail of thousand」は正しく表記されています)。
  • p.4: 1000系で座席のポスト(スタンションポール)が設置されたのは1992年度製造の5次車、すなわちデハ1224、デハ1319〜1324、クハ1019〜1024の13両です。
  • p.33: 1012F、1013Fのワンマン化改造が完了したのは2000年6月です(前書「light trail of thousand」は正しい記述)。
  • p.34: 1012F、1013Fが目蒲線から池上線、東急多摩川線へ転籍となったのは2000年8月です(前書「light trail of thousand」は正しい記述)。また、ここだけ「転出」と使用されている単語が異なるのは意図的なものでしょうか。
  • p.35: 前面ワイパーが貫通扉部分から車掌台側に移設されたは逆で、車掌台窓から非常扉窓への移設となります。
  • p.45: 1012F、1013Fが東横線から目蒲線へ転籍となったのは2000年1月です。
  • p.48: 車いすスペースの記述でデハ1220〜1223の存在が抜けています。
  • p.50: デハ1215、デハ1315が最初にシングルアーム型に換装されたのは2005年12月です("頃" は不要)。デハ1315では僅かな間だけスカートなし、かつシングルアームパンタの姿が見られましたね。
  • pp.53-54: デハ1215、クハ1015にのみ搭載されていたフラット防止装置の記述がありませんが、意図的に省いたのでしょうか。1000N系の方では個別の車両の状況まで詳しく書かれているのに対し、こちらの記載はなかったので気になった次第です。
  • p.79: 車掌台側にスイッチなどはは「車掌台側のスイッチなどは」の typo でしょうか。

西あ14b 東横商会「よろよろなななな」

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養老鉄道に譲渡された7700系の形態解説本で、夏コミ(C96)で頒布された「ななななよろよろ」のアップデート版。

前号と比較して、車両動向としては

  • TQ05編成(7705-7905)の営業開始
  • TQ01編成(7701-7901)の塩浜入場
  • TQ14編成(7714-7814-7914)の塩浜出場

という変化がありますが、いずれも現地で調査されており、その行動力には脱帽させられます。

私はTQ05編成やTQ14編成の改造後の様子を自身の目ではまだ見られていないのですが、どうやらTQ05編成は床下機器の一部やクーラーキセが灰色に塗装され、TQ14編成はク7914の補助電源装置が換装されるなど、興味深い変化があるようですね。

西う18b Trainoir「駅構内・車内英語放送事例解説BOOK Vol.1 北海道・東日本編」

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  • 本の表紙と奥付で書名が異なっているのですが、おそらく表紙の方が正しいものと判断します。

書泉グランデ6Fやコミケットの鉄道島に並んだ力作の数々を見ていると、車両、駅施設、時刻表、走行音、前面展望、駅弁など鉄道趣味の幅の広さに驚かされますが、それでも「自動放送」に興味を持つ人はまだ少ないように感じます。しかし、当初は次駅案内が主だった自動放送も、昨今ではマナー放送や外国語放送が充実しており、一方で趣味的観点からはすべてのバリエーションを調査するのが困難になってきたり、外国語の文法の妥当性で議論が起こったりと、苦労もありますがそういうのも含めて鉄道趣味の愉しさが増えたといえる状況と思います。

そんな中、島中で見かけて飛びついたのがこの本。関東以北のJR、私鉄の英語放送を抜粋紹介したもので、同じような内容でもその言い回しは事業者によって異なることが分かります。また、京成や京急で行われている空港の案内、北越急行の美佐島駅におけるホーム立ち入り禁止の放送など、その路線ならではの珍しい放送も紹介されています。

一方、私自身、自動放送を10年以上調査している身で感じるのは、放送内容はダイヤ改正や車両更新とは無関係のタイミングで人知れず変更されることもあり、「その放送が流れた時期」を後から特定するのは困難な場合が多いということです。また、路線によっては列車の時間帯や季節によって放送内容が変わることもあります。その観点から言うと、本書で紹介されている放送に収録日や車種のデータが記載されていないのは残念に思いました。編集後記で取材済みのデータの数が非常に多くと書かれていることから、発行直前にまとめて調査されたのではなく、何年も前から収録を繰り返していたものと推測されますが、そうであるなら掲載されたデータは2019年12月時点の最新状況を反映しているとは限りません。列車写真に撮影日や撮影区間が書かれるのが一般的であるのと同様に、自動放送を紹介するにあたっても収録日と車種くらいは掲載して欲しかったなあと思いました。

いずれにしても今後西日本編を作られる構想もあるようで、本書のような存在をきっかけに自動放送に興味を持つ方が増えてくれることも期待します。

西う30a Yukigaya-8「雪が谷検車区全車調査簿2019」

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2014年の冬コミ(C87)で頒布された「東急1000系列ワンマン車データブック」のアップデート版。

本書の最大の特徴は、コピー用紙ホチキス留めの文字どおり「薄い本」でありながら、その中身は固定棒連結器の個体番号や消火器のバリエーションなど、唯一無二といえる濃い調査結果が掲載されていることです。前作では1000系だけだったものが、本誌では7000系も含んだ調査が行われており、2019年時点の池多摩線車両の貴重な資料といえるでしょう。

諸元表や本文を読んでいていくつか気になった点を以下にまとめます。

  • p.4: デハ1200形、クハ1000形の電動空気圧縮機(HS-10型、HS-20型)が三相交流かご式 誘導電動機 DC100Vと書かれていますが、正しくは直流電動機で電圧は1500Vです。
  • p.8: クハ1500形の電動空気圧縮機(HS-10型)が三相交流かご式 誘導電動機 DC100Vと書かれていますが、正しくは直流電動機で電圧は1500Vです。
  • p.9: 東横線所属の車輌から改造したため,蒲田方先頭車のクハ1700形は雪が谷検車区所属の1000系列電車としてはの部分、車両の所属が路線名だったり車庫名だったりとブレが見られるのが気になりました。
  • p.13: 7000系についてATC装置を搭載するため,東急線の鉄道線全区間への乗り入れが可能となっている.と書かれていますが、田園都市線地下区間(渋谷―二子玉川間)の保安装置にも対応しているのでしょうか? 運転台コンソール右側に置かれた列車無線制御器周りを見ると、田園都市線所属車には存在する非常発報ボタンが見当たらないので(準備スペースらしきものは存在する)、本当に渋谷まで乗り入れできるのか疑問です。

脚注

  • 1.

    ここ数回のコミケでもチェックを行うという告知はあったはずですが、自分はたまたまなのか検査なしで入っており、今回初めて手荷物検査に遭遇しました。 ↩ 戻る

  • 2.

    具体的にどの車両から変更されたのか私自身は確認していませんが、鉄道ピクトリアル1994年12月臨時増刊号の「私鉄車両めぐり〈151〉」(p.278)によると1006F以降のようです。 ↩ 戻る