Rail Magazine 2019年6月号「徹底解剖!ステンレス車」特集

発売から半年以上経ってしまいましたが、Rail Magazine 2019年6月号の「徹底解剖!ステンレス車」特集をようやく読みました。

ステンレス車両の技術面に焦点を当てた特集記事は鉄道趣味誌や業界誌でいくつも出ていますが、本誌の巻頭記事「J-TREC キーパーソンに聞く ステンレス車製造の A to Z」が特徴的なのは、記事タイトルから分かるように車両メーカーの社員やOBへのインタビュー形式となっていることで、単なる技術解説や事実の列挙だけでなく、実際の製造現場で働いた視点からの経験談が多く語られていることです。

例えば、ステンレス車の解説では必ずと言ってよいほど出てくる「スポット溶接」について、その方式や特徴は他文献でも掲載されていますが、「母材に電気を流すときに発生する音」にまで言及したケースは皆無ではないでしょうか。このようにインタビューならではの話が満載で面白い特集でした。その中でも、とくに興味を引かれた部分をいくつか紹介します。

  1. J-TREC キーパーソンに聞く① ステンレス車の基本の「き」
  2. J-TREC キーパーソンに聞く② ステンレス車製造のキー技術「スポット溶接とは…?」

J-TREC キーパーソンに聞く① ステンレス車の基本の「き」

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技術本部技術部の西垣昌司氏へのインタビュー記事。

ステンレス車は錆びないのではなく錆びにくいということ、 SUS304 ではなく SUS301 を使う理由、ステンレス車とアルミ車の製造コストや重要面での比較など、ステンレス車の基礎的な事項について分かりやすく解説されています。

個人的に興味を引かれたのは、第2世代ステンレス車のビード成型の進化についての話。

そのビードの様式にも時代ごとの変化があり、初期の東急の8090系などはビードが板の端まで達していました。これだと成型は簡単で、大型のプレスでできます。しかし板の端部にまで凹凸があるため、そこに穴というか、中の骨組みと密着していない部分が生じ、水密性に問題が出ます。当時はそこをシール材で埋めていたのですが、定期的な補修が必要となるのも問題でした。そこで、ビードを板の端まで通さず、中央部だけ盛り上げて端部に向けて収束し、端部は完全に骨組みに密着させるというやり方が出てきました。おなじみのJR205系の世代などがその様式になります。これは張り出し成型というかなり難しい技術で、少しずつ(約100mmずつ)押さえてギューッと曲げて、移動して…というやり方で時間がかかるのがネックでした。

Rail Magazine 2019年6月号 p.26

西垣氏の話では採用例として東急8090系と国鉄205系が挙がっていますが、東急ファン的には9000系の2次車以前と3次車以降の違いと言った方が分かりやすいでしょう。8090系や9000系1〜2次車の側面は吹寄せ部と幕板の溶接境界部分(腰部の赤帯周り)に設けられた鋼帯の存在により外観上盛り上がっているのが特徴ですが、9000系3次車や1000系ではその部分もビード処理に変更され、より洗練された仕上がりとなっています。この変更と同時に側面端部のビード処理も変更され、引用文にあるとおり一体成形方式の採用により端部が収束する形状になりました。

9000系2次車の側面ビード処理(クハ9007)
9000系3次車の側面ビード処理(クハ9009)

この変更は、私はこれまでは外観の見栄え向上のためかと漠然と考えていたのですが、実際は水密性の改善や保守低減のメリットがあり、一方で製作の難易度やコストの高さといった問題が発生することから、この次の段落で語られているようにJR901系でフラット外板を採用することになった要因の一つにもなったという経緯がよく分かりました。

J-TREC キーパーソンに聞く② ステンレス車製造のキー技術「スポット溶接とは…?」

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生産本部生産部構体課の森田和人氏へのインタビュー記事。

「スポット溶接時に発生する音」の話を先に挙げましたが、他にはスポット溶接の圧痕(溶接跡にできる丸いくぼみ)の状態に気を配る話がおもしろかったです。

初期のステンレス車である東急(旧)7000系などは圧痕の配置や間隔がバラバラで、もちろん普通に乗車する分には気にならないのですが、鉄道ファンの視点で車両をつぶさに観察していると、やはり今と比べて製作技術が未熟だった時代の車両ということが肌で感じれる部分です。

現在の車両は自動化技術が進んだためか、少なくとも素人の私が観察する分には充分に綺麗な状態になっているのですが、

スポット溶接の場合、その箇所に「圧痕」という丸い跡が残るのですが、その形のきれいさに経験の差が出ますね。電極棒というのは基本的に円柱で、接触面はわずかに丸みを帯びているのですが、これできれいな真円の圧痕が残せるかどうか。そのようなところには常に気を配っており、それは「感覚」が必要な部分ですね。

Rail Magazine 2019年6月号 p.33

と言われているように、プロの視点で見ればまだ妥協できない部分があるのでしょう。そういう点にも注目しながら車両を観察すると、より鉄道が面白く感じられるようになると思いました。