東武デハ1形のブリル27-MCB台車を見る
東急デハ3100形、サハ3100形の台車は本当にブリル型かの続きです。
3100形台車はブリル型かボールドウィン型か、の結論を出す前に、そもそもブリル27-MCBとはどのような台車なのか改めて見てみたいと思います。
東武デハ1形のブリル27-MCB台車を見る
現在、ブリルMCB台車はすべて現役を退いてしまった(rail.hobidas.com
)ようで、実物を見るには保存車などを訪ねるしかないものと思われます。首都圏では、東武博物館に展示されているデハ1形の5号車(デハ5)(www.tobu.co.jp
)がブリル27-MCBを履いているとのことで、見に行きました。
ブリル27-MCB形台車が登場したのは日本で言う明治末期ですが、東武デハ1形は1924(大正13)年製とのことで、ブリル台車では後期の個体といえます。
釣合梁(Equalizer)
釣合梁は軸箱至近でほぼ180度ねじ曲がり、中央部の低い部分は直線状になっています。これを「Depressed形」と呼ぶらしいのですが、一般的には「U字形」や「洗面器の断面」などと例えられています。対してボールドウィンの釣合梁台車は三日月状の美しい曲線を描いたものですが、後期の作品にはブリルMCBのようなU字形のものも存在したようです。
側梁(Side Frame)
側梁のうち上部の軸箱間、すなわち釣合ばねと結合する部分は軸箱付近よりも太くなっています。この部分の形態は、膨らみが下側と上側のタイプが存在しますが、東武デハ1形は上側に膨らんでおり、これは主に軸距の長いタイプに見られるもののようです。ちなみに軸距は実測で84インチ(約2134mm)。
- 「ファンの目で見た台車の話XI」(レイルNo.35)に軸距ごとの形態バリエーションが掲載されているので、詳細はそちらを見られるのがよいかと思います。
横梁(Transom)
横梁は球山形鋼となっています。対してボールドウィン型の台車は溝形鋼や通常の山形鋼が多いようです。
- ただし、「ファンの目で見た台車の話XV」(レイルNo.44)によると、新潟鐵工所が定山渓鐵道向けに製作したボールドウィン型台車の横梁に、同じく球山形鋼が使われていたとのことです。
枕ばね(Bolster Spring)
枕ばねは1列〜4列の板ばね(東武デハ1形は2列)があります。
図面によれば、その上にコイルばねが重ねて設けられているようで、釣合ばねも合わせて3種のばねにより車体を支えていることになりますが、横梁などに邪魔されて外部から見るのは難しいようです。私も覗き込んでみたのですが、暗いこともあり確認できませんでした。
ガゼットプレート(Transom Gusset Plate)
側梁と横梁の結合部は、側梁に覆い被さるようなL字型の板が設けられ、3〜4個のボルト(東武デハ1形は4個)で繋がれています。
ボールドウィンの釣合梁台車であるA形やAA形、あるいはその国産模倣品などはこの部分の構造が異なりますが、一方で東京市電のD10形台車などのように、似た形態を持つ品が国産品でいくつか存在します。
トラニオン
横梁と上揺れ枕は、「トラニオン」や「ボルスターガイド」と呼ばれるリンク部材で結ばれています。これはブリルMCB台車を紹介した記事には必ずと言ってもよいほど掲載されている部品で、台車枠からボルスターを伝って車体に牽引力を伝えるのに使用されます。構造的には後のボルスタアンカーにあたるもので、27-MCB形のほか76-E形や77-E形にも同様のものが存在します。
スナッパー
吊りリンク(Swing Link)の最下部、下揺れ枕と結合する部分のピンにはコイルばねが設けられており、左右方向(レール方向)の大きな振動を抑える役目を果たしています。
軸箱
これは余談になるのですが、東武デハ5の台車軸箱の蓋形状はブリルのものとは異なり、住友グループの井桁マークが見られます。おそらく、どこかの段階で住友製のものに交換されたのでしょう。
参考文献
この記事を書くにあたって参考にした書籍や雑誌記事は次のとおりです。
- 「ELECTRIC RAILWAY DICTIONARY」
- 「HISTORY OF THE J. G. BRILL COMPANY」
- 吉雄永春「台車のすべて5」(鉄道ピクトリアルNo.82・1958年5月号)
- 高田隆雄「台車とわたし2」(鉄道ジャーナルNo.95・1975年2月号)
- 西敏夫「Brill台車とその特色」(鉄道史料No.28・1982年10月号)
- 真鍋裕司「珍台車をたずねて」(鉄道ピクトリアルNo.515・1989年8月号)
- 吉雄永春「ファンの目で見た台車の話XI」(レイルNo.35、1997年)