ボールドウィンL,R形、日車M-12形台車について
加悦サハ3100形の藤永田造船所製台車を見るの続きです。
ボールドウィンL,R形・フローティングボルスター式台車
Baldwin Locomotive社の台車において、MCB(Master Car Builders)規格における高速電車用としてはA形やAA形が有名で、J.G.Brill社の一体鍛造による27-MCB形とは対照に平鋼を組み合わせているのが特徴です。
一方、市内電車など低速用としては、レール方向に設置した板ばね(枕ばね)の上にボルスターを載せた「浮動式(Floating Bolster)」のL形、R形が存在しました。この台車の特徴は、なんと言っても菱形の鋼板を組み立てた軸箱守でしょう。同じく浮動式であるブリル27-GE形や76-E形と比べると、この軸箱守の違いがもっとも目立ちます。
ボールドウィンR形・スイングボルスター式台車
ボールドウィンL,R系統の台車は低速用電車を中心に使用されたようですが、一方で
とあるように、少数ながらA,AA形とL,R形の中間形態のような台車も存在しました。これらは下揺枕を台車枠から伸ばした揺枕吊りで支える「揺動式(Swing Bolster)」となっています。
たとえば、日本車輛が1928(昭和3)年に新京阪鉄道や広島瓦斯電軌向けに製作したM-12形という台車がありますが、これは日車の車輌史10において同社のブリル27-MCB形近似タイプであるE形とは区別されており、次のように紹介されています。
このボールドウィンR形に釣合梁を設けた台車について、「台車のすべて」などを参考に時系列的な流れをまとめると、汽車会社がはじめに造り、藤永田造船所や田中車輛(現在の近畿車輛)がそれを真似たものを目黒蒲田電鉄や信貴生駒電鉄に納入、さらに日本車輛がM-12形を製作、ということになります。
- なお、信貴生駒電鉄で使われた台車(車両はデハ1〜4)については、「電車を訪ねて48」(鉄道模型趣味No.79・1955年3月号)に
BW型
との記載があります。
文献によってブリル型とボールドウィン型が混在する理由
このように各種資料や台車研究家の記事、そしてなにより現物の形態を見るかぎり、ボールドウィンR形に釣合梁を設けた台車を「ブリル型」と称すには無理があると思うのですが、現実にそのように書かれている文献は複数存在します。これはなぜでしょうか。
以下はすべて推測となりますが、軸箱守部分を除けばブリル27-MCBに似ている部分も多いので、これを27-MCBの亜種や改造品だと考えたのかもしれません。また、実際はボールドウィンR形だとしても、納入先(鉄道事業者)の考え方は違うという事例もあります。
たとえば、東急デハ3450形(モハ510形)は日本車輛製と川崎車輛製が存在しました。台車もそれぞれのメーカーによるもので、釣合梁の形状は前者がDepressed形(U字形)、後者が三日月形(弓形)という違いはありますが、いずれも明らかにボールドウィンA,AA形です。ところが初期の車両竣功図表では、これを「ブリル型」と書いてあるものも存在します。
何かの間違いか、あるいは社内的にはあくまでブリル型という扱いだったのかは分かりませんが、いずれにしても当時の竣功図表の記載内容は車両研究の視点からはあまり参考にすべきでないと言えるでしょう。趣味誌などの記事でも、3450形台車をブリル型と記したものはさすがに見かけません。
結論「3100形台車は汽車会社と藤永田造船所によって作られたボールドウィンR系統である」
東急3100形の台車についてまとめると、
- 軸箱守の周囲の形態はボールドウィンL,R形のものである。
- 構造的に電動車時代は主電動機が内掛けだったと思われるので、L形ではなくR形と言える。
- 電鉄内では「ブリル型」という扱いだったのかもしれない。
- 車両竣功図表に「ブリルM.B.C27E型」という記述があるが、図表自体が正確でないと思われる。
- 101〜105(3101〜3105)の台車は汽車会社製で、106(3106)以降には藤永田製もある。吉雄氏の記述に間違いがなければ、106〜112はすべて藤永田製。
- ただし振り替えの可能性により、後年はどの車両がどのメーカーの台車を履いていたかは不明。現存する3104の台車のうち、片方は藤永田製かもしれないが、断定はできない。
といったところでしょうか。判断材料が少なく推測ばかりになってしまいましたが、これにて結論にしたいと思います。
デハ3700形、クハ3750形のKS-33形台車へ続きます。